第五話「稚き女王編」

 

 澪が綺沙羅に変身を見せてから数日。最初のうち、澪はかなり無口であったが、最近では普通に綺沙羅達と言葉を交わすようになってきた。羅瑠の言葉によると、澪は人に変身を見られる事を嫌っていると言う話であった。成る程、その事に関しては綺沙羅も自分が澪の立場なら同様だろうと思った。しかし、綺沙羅はその事によって自分の体にも変調が現れるのではと、内心酷く怯えもした。

 その事は陰鬱に綺沙羅の感情にも影響したが、怪物達に襲われることなく、その上、澪が出会った時の調子に戻りつつあることで、平素は忘れることが出来た。

「それで………」

 例によっていつも同じ造りの部屋の中、冷蔵庫の中から林檎を一つ取り出す綺沙羅。

 この奇妙な地底世界で唯一安心できることと言えば、食べ物と水の心配をしなくても良いと言うことである。

 綺沙羅は林檎を囓りつつ再び口を開いた。澪と物言わぬ少女むつみは食事の手を止めるが、羅瑠だけは綺沙羅の言葉など耳に入らない様子でソーセージ二本を同時に口に詰め込んでいる。

「それで、私達は何処へ向かっているの?」

 綺沙羅の問い掛けに、澪は口を歪めた。人を莫迦にしたとも、自嘲したともとれる薄い笑みである。

「何処へ行っていると思うの?」

 澪の言葉に、綺沙羅は黙って首を横に振った。

 綺沙羅は澪の、この、人を嘲弄する態度が気に入らなかったが、綺沙羅がその事に過敏に反応すれば、澪を楽しませるだけである。綺沙羅は辛抱強く相手の出方を窺った。

「はあ………、何処か行く当てがあるのなら、私が聞きたいくらいだわ。それとも子猫ちゃんには、何処か行きたい場所でもあるのかしら?変わり映えのする場所があるのなら、私は何処だってお供するわ」

 大袈裟に溜め息をつくと、澪はそう答えた。綺沙羅はその澪の言葉に、冗談でもなく溜め息をついた。綺沙羅にしても何処か行きたいところがあるわけでもない。

「僕はあの塔に登ってみたい♪」

 今まで無心にハムやソーセージを詰め込んでいた羅瑠が、不意に口を開く。

「こら、食べ物が口の中にある時には、喋っちゃいけないっていつも言ってるでしょっ!」

 澪が羅瑠を窘める。しかし、羅瑠は軽く頭をすくめただけで、食べ物を呑み込むと、改めて口を開く。

「でもでも、僕はあの塔に行きたい♪」

 羅瑠の頑とした調子に、澪は呆れた声を出す。

「あのね、あの塔から化け物が来るのよ。あんな処に行ったら、私達なんてひとたまりもないわよ」

「む〜う、澪は意地悪だぁあっ」

 へそを曲げる羅瑠。しかし、澪は今度は取り合わなかった。

 そこへ、不意に綺沙羅が口を挟んだ。

「でも、何かがあるとしたらあの塔しかない訳でしょ?」

 綺沙羅の言葉に、澪は渋面を向ける。

「綺沙羅までそんな事を………。この街にいる誰もが、あの怪物達から逃れたがっているのに、あなたはあの化け物達にまた抱かれたいわけ?」

「そ、そんな事………」

 口ごもる綺沙羅。澪はそんな綺沙羅の手を取ると立ち上がり、傍らのベッドに押し倒した。

「な、なにを…………?!」

 狼狽える綺沙羅の唇を澪は強引に奪った。

「んむぅっ!?」

「ふふふふ、食後のう・ん・ど・う♪綺沙羅はすぐに忘れちゃうみたいだけど、あなたは私の肉奴隷なんだからね♪♪」

 澪は綺沙羅の手を束ねると、綺沙羅の身体を覆っていた布をはぎ取った。ベッドのシーツを裂いて作った簡素な服である。

 小さく悲鳴を上げる綺沙羅。羞恥に身体が小刻みに震え、白乳がふるふると揺れる。その柔らかそうな果実を見て、澪は嬉しそうに息を呑んだ。

「あらためて、いただきま〜すっ♪」

 綺沙羅を押し倒す澪。澪は綺沙羅の胸に顔を埋め、ぐりぐりと鼻を動かす。

「あんぅっ!くすぐったいよ………」

 綺沙羅が頬を桜色に染めて、澪から逃れようと藻掻くが、澪は綺沙羅の上に覆い被さり、逃さなかった。

「も〜お、いやっ!!」

 ついに綺沙羅はたまりかね、澪の顔を押しのけた。一瞬、綺沙羅は自分のしたことを後悔したが、時既に遅く、澪は既に力の抜けた綺沙羅の手首を掴むとやんわりと押しのけ、癖のある笑みを見せた。

「(あ、悪魔の微笑み……)」

 口の中で呟く綺沙羅。澪の無邪気な嗜虐性に、自ら油を注いだと直感し、顔を引きつらせた。対して、澪はさも嬉しそうな表情を見せている。

「あら?綺沙羅は私との約束を忘れたのかしら?それとも、それが綺沙羅の人間性って事なのかしら?」

「………」

 澪は人差し指で綺沙羅の頬を撫でながら、ねちねちと非難した。

「へえ、そうなんだ?………まあ、ねえ。…こんな処だもの、約束なんていくらでも反古にしちゃえば良いわよねえ。ホント、人間って危機的状況に陥ると、本性がもろに出ちゃうわよねえ………」

「………そ、そんな事」

 口ごもる綺沙羅を、澪は意識的に無視した。

「はあ、こんな可愛い顔してるのに、本性は人との約束も満足に守れない、外道畜生にも劣る、卑劣人間だったのね………。あ〜あ、私って人を見る目が無いなあ……」

 呆れた風を装って、澪は顔を背けるが、片目はうっすらと開けて綺沙羅の様子を伺う。

「ご、御免なさい……」

 仕方なしに謝罪する綺沙羅。これが澪の楽しい遊びだと言うことは分かっていたが、いつまでも付き合わされてはたまらない。また、綺沙羅が今のところ澪に頼らなくてはならないと言う事は現前とした事実として存在している。

「あら、私、素直な女の子は大好きよ」

 以外にあっさりと謝罪を受け入れる澪。

「それじゃあ、今日は素直な子猫ちゃんをみんなで気持ちよくしてあげるわね」

「……………え?」

 戸惑いの表情を見せる綺沙羅。

「では、お勉強です♪綺沙羅ちゃんのあそこはどうなっているでしょう?」

 そう言うと澪は、事態が把握できないでいる綺沙羅を後ろから羽交い締めにして、足を開くように促した。

「さあ、皆のお勉強の為に足を開いてちょうだい?」

 この世界ではシーツくらいしか着る物は手に入らず、綺沙羅は当然下着すらも身につけてはいなかった。その上、足下には羅瑠とむつみがいる。そんな状態で足を開ける筈もなかった。

「………そ、それは」

 消え入りそうな声で呟く綺沙羅。

 当然、澪には綺沙羅が足を開けないと解っていた。しかし、だからこそそれが楽しいのである。小刻みに揺れる綺沙羅の膝小僧を眺めながら、澪はそれが開くのを嬉しそうに見守った。

「あれ、どうしたのかしら?もしかして私の言うことが聞けないってことかしらぁ?」

 澪の言葉に、綺沙羅がぴくりと反応する。

 やがて、わずかだが膝の間が開く。

「うふふふ、綺沙羅ちゃん頑張ってる……」

 澪の笑い声に、綺沙羅は消え入りそうな思いがした。

 そこへ、ふと、足下の羅瑠と視線がぶつかった。羅瑠は興味本位にこちらを見つめている。また、傍らのむつみも同様であった。

「お、お願い、見ないでぇ………」

 足下の少女達に懇願する綺沙羅。

 むつみはその声に素直に従い、申し訳なさそうに顔を背ける。しかし、羅瑠は興奮した面持ちで、瞳を輝かせながら視線を動かそうとはしなかった。

 もしかすると綺沙羅の小さな呟きなど耳に入っていないのかも知れない。

「駄目よ、むつみ。ちゃんと見ていなきゃお勉強にならないでしょ」

 顔を背けていたむつみだったが、澪の言葉におずおずと視線を戻す。しかし、むつみもやはり興奮しているのか、頬は赤く染まり、瞳がわずかに潤んでいる。

 羅瑠やむつみにとって、綺沙羅は澪とは違う年上の女性であり、また憧れでもあった。そんな綺沙羅が羞恥に頬を染め、羅瑠達の前に足を開こうとする姿は、この上なく羅瑠達を興奮させた。

 また、そんなあどけない瞳に凝視され、綺沙羅もまた、それが同性の視線でありながらより恥ずかしさを感じてしまうのであった。

「はあ、仕方ないわね………」

 いつまでも震えている綺沙羅に、澪は大きく溜息をついた。

 一瞬、もしかして許してもらえるのかと思った綺沙羅であったが。

「……羅瑠、むつみ。ベッドに上がって綺沙羅が足を開くのを手伝ってあげて」

「………え?ええええ?」

 驚き、戸惑いの声を上げる綺沙羅。しかし、羅瑠はすでに綺沙羅の膝に手をかけ、むつみも躊躇いながらもベッドに上がってきた。

「ち、ちょ、やめてぇ………」

 小さく悲鳴を上げる綺沙羅。しかし、澪の胸には心地よく染みわたる。

「さて、綺沙羅ちゃんのあそこはどうなっているでしょう」

 澪の声と共に羅瑠達の手に力がこもり、ついに綺沙羅の秘部が露わになった。

「さあ、どうかしら?羅瑠、綺沙羅ちゃんのあそこはどんな感じ?」

 澪の言葉に、羅瑠は足の間に顔を割り込ませ、真剣な表情で淫裂を観察する。

「う〜〜んとね、僕よりちょっと毛があるの。それでね、桃みたいな産毛がきらきらしてる………。それとね、う〜ん、綺麗なピンク色のお肉がはみ出してるの。中はごにょごにょしててよく分からない…」

 羅瑠に事細かに報告され、綺沙羅は羞恥に涙がこぼれそうになった。しかし、だからといって澪は解放してはくれない。それどころか、更に羅瑠をけしかける。

「よく分からないなら、中を開いて見てみたら♪」

 澪にそう言われ、羅瑠は眉間にしわを寄せると、更に真剣な様子で手を伸ばす。

 勿論、綺沙羅は身を捩って逃れようとするが、澪はそれを許しはしない。

「や、やめてぇ……汚いよぉ」

 涙声で訴える綺沙羅。しかし、羅瑠はまるで意に介さない。

「汚くなんかないよ。だって僕、綺沙羅のことが好きだもの」

 無邪気に応じる羅瑠。小さな指が秘桃の両側に添えられ、やがてにちゅりと割り拡げられる。

 思わず顔を背ける綺沙羅。

「う〜んとね、中はぬるぬるしてて、エッチなお汁がいっぱいなの……。開いたらこぼれてきちゃった……」

 折り重なった襞の中を、羅瑠の指が遠慮会釈なく這い回る。その度、微妙な刺激が伝わり綺沙羅の体の芯にきゅんきゅんと甘い痺れが広がった。

「ふふふ、それじゃあ今度はむつみちゃんの番。御奉仕してあげて。綺沙羅ちゃんは今までよく頑張ったから、御褒美としてたっぷり気持ち良くしてあげてね♪」

 綺沙羅はむつみに声をかけると、羅瑠と交代に綺沙羅の太股の間に体を割り込ませた。

 綺沙羅は既にぐったりとなり、澪に体を預けている。澪は羽交い締めにしていた手を弛めると、今度は太股の内側をすくい上げ、綺沙羅を小さな子供のおしっこスタイルにしてしまった。

 突き出された秘部に、むつみはおずおずと舌を伸ばす。

「ひあっ!」

 淫核の表面をぬるりと舐められ、綺沙羅は小さく悲鳴を上げる。

 ちろちろと淫核を舐め始めるむつみ。先でころころ転がすように、舌の平で全体を舐め回すように、むつみは丹念に舐めあげる。

「どう、むっちゃんの舌は?癖になるでしょ?」

 綺沙羅の耳元で、澪が囁く。しかし、綺沙羅は上擦った声を上げるだけでろくに答えられないでいた。

 勿論、それが澪の問いかけに対する答えにはなっているのだが。

 やがてむつみの動きは大胆になり、両手で綺沙羅自身を大きくめくりあげると、鼻を埋め、体の奥深くに舌を侵入させ始めた。

 むつみの小さな舌は、幾重にも折り重なった肉襞をかき分け、奥へ奥へと潜り込む。

「(やっ!こ、この娘、上手い………)」

 心の中で呟く綺沙羅。そして、それを見透かしたかのように澪が告げる。

「ふふふ、むつみはずっと私に御奉仕を仕込まれているから、綺沙羅の気持ち良い所を直ぐに見つけちゃうわよ」

 澪はそう言って、綺沙羅の胸をやわやわと愛おしげに揉みしだいた。

 しかし、当の綺沙羅はむつみの舌使いに翻弄され、身体をぴくぴくと悶えさせるのみであった。

 狭い部屋に、ぴちゅぴちゅと淫らな音が木霊する。

「ひぁっ!ふんぅっ!!………やはぁ、やめてぇ。気が変になりそう」

 執拗なむつみの攻めに耐えかねて、綺沙羅が甘い悲鳴を上げる。

 しかし、むつみは綺沙羅の股ぐらから顔を上げようとはしなかった。むつみも羅瑠同様、綺沙羅には一種の憧れを抱いており、その事が綺沙羅に対する奉仕を熱心にさせていた。そして、むつみの股間もいつしか熱と湿り気を帯び、甘酸っぱい香りを漂わせていた。そして一筋、愛液が漏れだして太股を伝い落ちる。

「………!!」

 次の瞬間、むつみが小さく悲鳴を上げた。今まで蚊帳の外にいた羅瑠が、耐えかねてむつみの秘部にむしゃぶりついたのだ。

 その様子に苦笑を漏らす澪。そして、自らも自身の興奮を収める為、綺沙羅の身体をずらすと片腕の中に支え、その唇にむしゃぶりついていった。

 半開きになった綺沙羅の唇をこじ開けると、澪は舌を深く侵入させて口内を陵辱した。息苦しくなって藻掻く綺沙羅。しかも下半身ではむつみの舌が秘腔を舐めずり回し、その上、細い指に蜜汁を絡ませたかと思うと、菊門にねじり込み始めた。

 四者四様、それぞれに快楽を貪る少女達。

「ああんぅっ!!やは、ぁああああっ!!」

 やがて絶頂の波が押し寄せ、綺沙羅は激しく絶頂を迎えた。

 

 足を絡ませ合い、狭いベッドの上で少女達の裸身が白く蠢く。四人の少女は何度も求め合い、やがて疲れ果てて眠ってしまったのだ。

 その為、何者かが綺沙羅達のいる部屋を包囲しているなどと、誰も気付かないでいた。サイクル的には奇岩から怪物達が吐き出されるまではまだ時間があり、それ以外の脅威など念頭になかったのも事実であった。

 そして、心地よい倦怠感の中、最初に異変に気が付いたのはむつみだった。

 外の気配に気付き、あわてて澪を揺り起こそうとするむつみ。しかし、むつみは口が聞けず、激しく澪を揺すっても、疲れ果てた澪はそれに応じようとはしなかった。

 そして、むつみが何とか危険を知らせようと澪の髪の毛をつかんだ瞬間、部屋の扉が押し倒されて、黒い人影がなだれ込んできた。

 澪はその瞬間に飛び起きたが、何者かに殴られ気を失ってしまった。そして、気が遠くなる瞬間、綺沙羅の悲鳴と羅瑠の罵声が聞こえたような気がしたが、しかし、それは直ぐに遠のき、澪の頭の中には深い暗闇が訪れたのだった。

 そして、次に目を覚ましたのは大きな広場の真ん中だった。

  殴られた後頭部がずきずきと痛み、それでも澪は何とか瞼を持ち上げた。同じ様な建物が建ち並ぶ中、急に円形の広場が存在している。澪は僅かに訝ったが、それが実は建物が大きく倒壊した跡だと気が付くのにそう時間はかからなかった。

 そして、傍らには縛られたむつみの姿が。視界の端には羅瑠の足らしき物が横たわっており、おそらく綺沙羅も視界の外にいるのだろう。少女達は四人とも縛られて、転がされているのだ。

 動かないでいるむつみに目をやり、もしかして死んでいるのかとも思ったが、小さく呼吸をしているのでどうやら死んではいないようである。

 少し安心したが、それと共に怒りが喉元にまでこみ上げて、こめかみがずきずきと痛む。

「澪……」

 背後から声がした。綺沙羅の声である。

「気が付いた、澪?」

 その言葉に、澪は首を縦に振って応じる。

 すると、そのやりとりに聞き慣れない声が割って入った。若い女性の声である。

「気が付いたのなら体を起こせ!」

 背中に鋭い痛みが走る。どうやら声の主に背中を蹴られたようだ。背後で綺沙羅も小さな悲鳴を上げた。

 激しい憎悪と共に半身を起こす澪。そこには竜鱗で覆われた戦士が立っていた。それも一人や二人ではない。澪達の周りを円形に、異形の戦士達が取り囲んでいるのだ。戦士達は皆、澪が変身した姿に酷似しており、全身を光り輝く鱗で覆われていたが、それぞれ鱗の色は違っていた。

「もっとしっかり起きないかっ!!」

 再び叱責が飛ぶ。どうやらそれは澪達の傍らに立つ戦士で、その鱗は深みのある暗緑色である。先程、澪の背中を蹴ったのもどうやらこの緑の女戦士のようであった。

 暗緑色の戦士は悠然と、そして傲然と少女達の前に立つと、澪達を見回した。

「お前達は女王の領土へ不法に侵入したばかりか、その食料に勝手に手をつけた……」

 そう告げる緑の戦士。澪はやや訝しげな目を向ける。

「見たところあなた達も私達と同じで此処にいつの間にか連れてこれらた口じゃないの?それが領土の主張なんて、一体どういうつもりかしら?」

 澪は相手の目を見据え、毅然として言ったが、相手は問答無用で澪の肩を蹴り飛ばした。

「きゃっ!」

 痛みに眉をしかめる澪。

 傍らにいる綺沙羅が心配そうな声を出すが、澪は何も言わずに歯を食いしばって起きあがった。

 その様子を見守りながら、緑の戦士は再び傲然と告げた。

「此処は女王ラシュミラ・サキヤの治める国である。そこにある物は総て女王の物だ」

 緑の戦士の傲岸な態度に、澪は相手を睨み付けた。緑の戦士がその挑発的な態度を咎めようとした時、背後から声がかかり、戦士達の輪が左右に割れる。

「やめよ、グレース。ラシュミラ様の御前であるぞ」

 声の主はやはり竜鱗の戦士であった。青玉色の竜鱗を身に纏い、傍らには幼い少女が立っている。

 どうやらこの少女がラシュミラのようであった。

 年齢は羅瑠とさほど変わらないだろう。ただし、その面差しはどこかエキゾチックで、名前からしてもそうなのだろう東南アジア系の容姿である。また、少女の表情は冷たく、どこか無機的だ。

「お前達は‥……」青玉色の戦士はグレースと呼ばれた緑の戦士を退けると、綺沙羅や挑戦的な目を向ける澪の前に立った。

「お前達は知らないこととは言え、ラシュミラ様の領土に勝手に侵入した。しかし、我々は今、一人でも仲間を必要としている。どうだろう、女王に忠誠を誓い、この国にとどまる気はないか?見たところお前は変身能力に覚醒しているようだ。私達と同種の感じを受ける」

 その言葉に、澪は嘲笑を持って答える。

「囚われの身で、領土も何もないと思うけど。此処は広いかも知れないけど、それでも大きな檻なのよ?変身できるからと言って相手にできるのは化け物のせいぜい二・三匹が良いところ。とても勝ち目はないわ」

 青玉色の戦士はグレースとは違い、澪の言葉を冷静に受け止めた。

「成る程、お前の言うとおりなのかも知れない。だからこそ、我々には結束が必要なのだ。我らの変身能力と、ラシュミラ様の力を持ってすれば、この巨大な檻から飛び出すことも可能なのだ。現に、我らはあの怪物どもを一度ならず撃退している」

 その話を聞き、澪は成る程と頷いた。この倒壊した建物はその戦闘の名残なのだ。しかし、彼女たちに協力しようと言う気はなかった。

 青玉の戦士は今度は綺沙羅に目を向けるが、綺沙羅はどう答えて良いのか解らなかった。成る程、ラシュミラの力がどんな物なのかは想像はつかないが、変身した澪と同等の力を持つ者が大勢いる。それだけでも何とかなりそうな気がしてくる。しかし、これまで行動を共にしてきた澪の考えを無視もできない。少なくとも澪の意向が解るまでは何も言えなかった。また、結束のためとはいえ彼女達のやり方も気にいらなかった。それは、羅瑠やむつみも同じなのだろう。青玉の戦士を前に、誰も口を聞かなかった。

 綺沙羅達が何も言わないことに対して、青玉の戦士は静かに告げた。

「我々のやり方に不満はあるかも知れないが、奴ら化け物相手に甘いことも言えない。国としての成り立ちは原始的かも知れないが強いリーダーの元に結束しなければ、この難局を乗り切ることはできないのだ。ともあれ、しばらくの間は拘束させてもらう。その間に、ラシュミラ様の力を見れば、協力する気になるかも知れないからな」

 青玉の戦士の言葉に、傍らにいた竜鱗の戦士達は綺沙羅達を立ち上がらせた。

 綺沙羅はラシュミラの顔を伺うが、その表情から感情を読みとることはできなかった。洗脳されているとか、操られているとか、そう言った風ではなく、どこか超越的なのだ。

 そして、綺沙羅達が連れて行かれたのは、変わり映えのしない白い建物の一室であった。 しかし、中はベッドも何も運び出されており、空っぽであった。また、拘束は解かれないままで、ドアの向こうには見張りの戦士が立っている。

 部屋に無造作に転がされた綺沙羅達。綺沙羅は半身を起こすと、澪の元へと身を寄せた。話をする為であるが、羅瑠やむつみもそれに倣う。

「此処の人達、本気で怪物達と戦うつもりなのかしら?」

 綺沙羅の問い掛けに、澪は呆れた風に肩をすくめてみせる。

「本気も本気、超本気って感じね」

「此処の人達、勝てるかしら?」

 綺沙羅が再び質すと、澪は深く溜息をついた。

「そんなの私が解るわけ無いじゃない。でも、もうすぐ解るんじゃない?そろそろあの化け物達が来る時間だから………」

 澪はそう言うと、今度は綺沙羅の問いかけには応じなくなってしまった。その時間が来るまで待とうと言うことなのだろう、綺沙羅は暗黙のうちに了解し、四人の少女達は時が来るのを静かに待った。

 それからどのくらい経っただろうか?退屈に羅瑠がまどろみ始めた頃、奇岩が空を飛ぶ、低い唸り声が聞こえてきた。

 綺沙羅達は窓に寄って、外の成り行きを見守った。

 ちょうど綺沙羅達に自分達の戦いぶりを見せたかったのだろう。窓は大きく開け放たれており、そこからは戦闘によってできた広場が一望できた。

 そして、竜鱗を纏った戦士達が見事な隊列を成し、怪物達が襲い来るのを待ち構えていた。数にして三百は下らないだろう。

 やがて奇岩がその姿を現す。周囲には醜悪な化け物が飛び交っているが、奇岩の前に見慣れぬ人影があった。

 綺沙羅が目を凝らしてみると、それは美しい一人の天使であった。手には大理石のメイスを持っている。

 綺沙羅達は知る由もないが、それはこの地の制圧を任されて失敗した天使ウジアルであった。ウジアルはこの機会を最後に、淫蕩な悪魔ベリアルに下げ渡されることとなっていた。

 やがて、怪物達がかなりの所まで近づいてきた時、青玉の戦士が片手をさっと振り上げた。

 その無言の号令と共に、竜鱗の戦士達の三分の一が怪物めがけて突き進んでいった。急先鋒は暗緑色の戦士グレースが努めている。

 やがて始まる壮烈な戦闘。

 竜鱗の戦士の破壊力は圧倒的で放つ拳の一撃は怪物達の頭を熟れた果実のように吹き飛ばし、その怪力は敵をまるで柔らかなチーズのように引きちぎっていく。

 しかし、危なげないのも束の間で、数で勝る怪物が次第に戦士達を圧していく。

 すると、青玉の戦士がまたも号令をかけ、残ったうちの半分が加勢に向かった。

 そして、いくらもしないうちに青玉の戦士はまたも号令を発し、今度は青玉の戦士がその先頭に立って飛び出した。完全に相手を鎮圧するつもりだったのだろう、最後発の部隊は左右から敵を挟み込み、次第にその間隔を詰め始めた。

 綺沙羅はその様子を見て、竜鱗の戦士の勝利を確信したが、そこまではウジアルも計算のうちなのだろう、今度は彼女が手にした大理石のメイスを振りかざした。

 するとそれを合図に、奇岩が二つ、その背後から現れた。

 綺沙羅は絶望したが、それは上空で戦っている戦士達も同様で、意気盛んに戦っていた戦士達は次第に気圧されていく。

 一人、また一人と、怪物達に群がられ、竜鱗の戦士達が落下していく。

 そして、更には敵加勢の上にウジアルも戦闘に飛び込んでいった。

 美しき天使はメイスを振りかざし、次々に戦士達を叩き落としていく。そして、彼女の持つメイスからは紫電が迸り、戦士達を寄せ付けない。

 圧倒される竜鱗の戦士達。しかし、そんな中、一人の戦士が飛び出し、ウジアルの紫電を受けながらも相手に組み付いた。

 暗緑色の戦士、グレースである。

 か細いウジアルの身体に比べ、竜鱗を纏ったグレースの体躯は何倍もあった。しかし、恐るべき事にウジアルはその背中に手を伸ばすと、肩胛骨、翼の付け根を掴んだ。みしみしと音がして、やがて引きちぎられるグレースの翼。

 悲鳴を上げて落下するグレース。

 そこへ追い打ちをかけるようにウジアルはグレースめがけて紫電を放った。

 あわやという瞬間、ウジアルを庇ったのは青玉の戦士であった。

 もつれ合った二人の戦士は、何とか手近にあった建物の上に不時着する。

 どうやら今回の戦闘は、不退転の決意を持ってしたウジアルに軍配が上がるかに思われた。

 しかし、突然怪物達の様子が変わった。それが何かは直ぐには分からなかったが、綺沙羅達は酷い耳鳴りがして耳を塞いだ。

 耳鳴りの原因はどうやら広場の中央に立ったラシュミラだった。ラシュミラは戦闘を前にして超然と立つと、やがてその姿を変貌させていった。緋色の竜鱗を有する異形の天使。

 その姿に綺沙羅は僅かに訝った。ラシュミラの変身は、澪やその他の戦士達とさほど変わりなかったからだ。体も小さく、とても圧倒的な戦闘力を有するとは思えない。

 しかし、ラシュミラはその姿を更に変貌させていった。見る見るうちに巨大化するラシュミラ。怪物達が唸りをあげてラシュミラに群がるが、その全身から発する霊光によって身体に触れる前に霧散する。

 そして、ラシュミラが巨大な変身を遂げると、戦士達は戦線から退き始めた。圧倒的な戦闘力を有するラシュミラの、その戦いの巻き添えにならない為に。

 ラシュミラの変身に、ウジアルは怯んだ様子を見せるが、メイスをかざすと巨大なラシュミラ目掛けて、今までと比べものにならないほどの巨大な雷を放った。

 剛雷を受けて苦悶の雄叫びをあげるラシュミラ。しかし、ラシュミラの身体は次第に発光し、巨大な霊光の塊と化した。

 先程までの竜鱗の戦士と違い、その発光の中心に、おぼろげながらラシュミラの本体が伺える。

 そして、ラシュミラの身体から発せられた霊光は奔流となってウジアルの放電を押し返し始めた。

 エネルギーの塊がラシュミラとウジアルの間で渦を巻き次第に成長する。それはさながら際限なく空気を送り込まれる風船の様に。

 次の瞬間、そのエネルギーの風船は弾けた。

 轟音が耳をつんざき、光の奔流が視界を閉ざす。

 やがて視界が晴れると、丁度ラシュミラが巨神化を解こうとしていた。見上げると、ウジアルの姿も、怪物や奇岩の姿も見えなかった。

 圧倒的なラシュミラの戦闘力に、息を呑む綺沙羅。

 そして、次第に我に返った戦士達から歓声が上がり始める。

「す、凄い………」

 思わず呟く綺沙羅。しかし、澪の表情は浮かなかった。

「確かに凄いわね………けど」

 澪の言葉に、綺沙羅は振り返った。

「けど、何?」

「私達を此処に連れてきたのがあの化け物連中だったとして、あの力が連中の望むものだったとしたら、その力を見せるのは得策じゃないし、それを上回る力を連中は有していると言うこと」

 澪の考えは慎重であったし、理性的ではあったが、ラシュミラの圧倒的な力を見せられた綺沙羅には賛同しかねるものであった。

「ラシュミラの力が彼等の予想を遙かに上回るものであったら?私達がラシュミラと同等の力に覚醒したら?此処を抜け出し、元いた世界に帰れるかも知れないじゃない!?」

 綺沙羅は熱っぽく語ったが、澪は意に介さなかった。

「綺沙羅は連中と戦いたい訳ね………」

 憮然と告げる澪、その言葉に、綺沙羅は僅かに動揺した。ラシュミラの強さに浮かれ、戦闘に参加するという実感が伴っていなかったのである。

「そ、そんな言い方……」

 口ごもる綺沙羅。

「私は何があっても生き延びる。その為にも不確定要素や危険は何処までも避け続けるつもりよ。あなたは私の奴隷なんだから、その方針に従ってもらうわ」

 話の接ぎ穂を切り捨てる澪。綺沙羅もそれ以上は何も言わなかった。

「さ、こんな不自由な格好だけど、しばらくは安心して眠れそう。私はもう寝るわ……」

 そう言うと澪は大きく欠伸をすると、ごろりと横になってしまった。

 綺沙羅がふとむつみ達に顔を向けると、心配そうな表情のむつみと視線がぶつかってしまった。

 努めて優しげな表情を向ける綺沙羅。

「大丈夫よ、さ、あなた達もお休みなさい。いざと言う時の為に体力を温存しておかないと……」

 綺沙羅がそう言うと、むつみはにこりと微笑んでその言葉に従った。

 ふと、綺沙羅はむつみが初めて笑顔を自分に見せてくれたような気がして、胸の奥をくすぐられような感じを覚えた。

 

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