第三話「白き高みの王編」

 

 最早、地上には生きている人間の姿はなかった。

 綺沙羅の記憶にある奇妙な天使の光臨。それは夢でも、記憶の混乱による錯覚でもなかったのだ。

 天使は現実に存在したし、また、それは綺沙羅の見た一体だけではなかった。

 世界各国に天使は降り立ち、街を破壊し、生きとし生ける全ての人間を神の炎で焼き尽くした。

 人間の反撃はなく、天使達は速やかに地上を焦土とすることが出来た。霊的位階、ヒエラルキーの低い人間は、天使をその目で見ることが出来ず、天使の発する光は生身の眼球を沸騰させたからだ。

 それ以外にも超常的、霊的力が働いたのかも知れない。

 何れにしても、世界は何時間もしないうちに沈黙し、破壊された人間の巣は地上を汚染し、大気を汚染し、惑星を太古以前の醜悪な姿に変えてしまった。

 そして、今は見る者のいなくなった蒼穹に、巨大な天使の姿があった。

 その天使は、地上を襲ったものではなかった。滑らかな曲線を描く官能的な肢体。白磁の肌は僅かに静脈を透過し、豊かな乳房の先にはほんのりと色付いた桜色の乳首が添えられている。背には白く輝く三対の翼を有し、その頭部は額を持たない両生類のそれと同じであった。

 左右に飛び出した大きな目で、静かに地上を見下ろす魁偉な天使。その姿は巨大で、奇妙なことに地球上のどの場所から見ても、それは天球上に見られた。

 そして、今、その異形の天使を、一人の女性が見上げていた。

 倒壊した自由の女神。その掲げられた炎の台座に腰掛けているのだ。

 蜜色の髪をした、美しい女性である。

 白い聖衣を身にまとったその女性は、形の良い美しい眉を醜く歪め、憎悪と敵意を剥き出しにして天を仰いでいた。

「神の代理人、メタトロン。あなたの御尊顔を拝するのは、デネブ以来ですね。我ら機械の神に背を向けた謀叛の天使は、今や気息奄々としてこの辺境の星に集まっている。地底奥深くにその根城を築き、神に挑もうと待ち構えているのです。あなたがそれに気付かれぬ筈はない。それとも、神の御前では我ら堕天の者など、塵芥にも等しいと言うことでしょうか」

 次第に興奮してきたのか、その女性は立ち上がると、異形の天使に鋭い視線を投げつける。

「しかし、我等とて勝算のない暗愚な謀り事はいたしません。いずれ時が来れば、その高慢な態度を後悔することになるでしょう」

 そう言い残すと、女は背後に白い翼を広げ、一陣の風と共に姿を消した。

 

 地下五万メートル、そこに綺沙羅達のいる地下都市、マテイが存在した。

 都市の中心にそびえ立つ人口太陽の塔。その塔の窓から、一人の男が下界を見下ろしていた。

 白いローブに、腰まで伸びた見事な金髪。肌の色は白く、その端整な顔立ちはまるで象牙細工のように繊細で、美しかった。

 しかし、その表情には僅かばかりの懊悩が見て取れ、一点の暗い影を落としていた。

 微動だにせず、下界の様子を伺う男。まるで立像のようではあるが、呼吸と共に胸元が上下し、彼が生きていることを告げている。

 そこへ、先程、地上にいた筈の女性が現れ、膝を折ると、恭しく傅いた。

「サンダルフォン様。テチアル、地上世界から只今戻りました」

 男は振り返りもせず、ただ衣擦れの音だけが女の言葉に応じる。

「人類の使用していた通信網は復旧させました。また、惑星全体にネットワークが広がるようにも手配いたしました」

「………テチアル、御苦労であった」

 男に労いの声を掛けられ、女の表情に喜色が広がる。

「いえ、とんでも御座いません。私はあなたのお役に立てればそれで………」

 テチアルと呼ばれた女は、僅かに思い詰めた表情を見せるが、背を向けたままのサンダルフォンは気付く様子もない。もっとも、サンダルフォンがテチアルの様子に気が付いたとしても、何の感情も見せないだろうが。

 しかし、テチアルの想いはサンダルフォンの言葉で十分に報われていた。彼女はサンダルフォンと同じ部屋に居、同じ空気を吸えるだけで十分なのだ。

 そこへ、また新たな女性が現れ、テチアルの甘い感情は吹き消された。

「サンダルフォン様。グミアル、報告に上がりました」

 僅かに憮然とした表情を見せるが、テチアルはすぐに表情を戻し、同僚に道をあけた。

「サンダルフォン様。実験体04がレベル2の反応を見せました。それと、異界に幽閉されていたベリアル、ベルゼブルの所在がつかめました」

 グミアルは膝を折ることもなく、凛とした声で報告を行った。

 エボニーの瞳は意志の強さを表しており、サンダルフォンを捉えて瞬きひとつしない。

「実験体04は続けて反応を見よ。同胞ベリアル、ベルゼブルは直ちに召還せよ」

 サンダルフォンのその言葉に、グミアルは首を横に振った。肩で切り揃えた黒髪が、ふわりと膨らむ。

「04はそのまま実験を続けますが、ベルゼブルの召還には今暫く時間が必要です。召還するにはこちらを認識させねばなりませんが亜空間に波動として存在している様子で、意志の疎通を図ることが難しいのです。ベリアルは既にこちらの呼び掛けに応じていますので、コアと祭壇、生け贄の用意さえ調えば召還は可能です」

 グミアルの報告に、サンダルフォンはようやく二人の女性に向き直った。

 主の端正な顔を見て、テチアルの胸は高鳴った。

「なら、……」

 しかし、サンダルフォンはテチアルには目もくれず、直立するグミアルに憮然と言い放った。

「なら、ベリアルの召還を急がせろ。それと、ウジアルはどうした?実験体02の掃討を命じた筈だが?」

 サンダルフォンの言葉に、グミアルは僅かに口ごもった。ウジアルは実験体02の掃討に失敗したからだ。

「ベリアルの召還にはすぐに取りかかります。それと、ウジアルのことですが………」

「実験体02はレベル3の覚醒を見せています。並の機械魔では歯が立ちません………」

 グミアルの言葉をテチアルは引き継いだ。視線がテチアルに向けられるが、それはテチアルが望むものではない。

 思わず固唾を飲むテチアル。

「それは分かっている。だからウジアルを遣ったのではないのか?」

「そ、それはそうなのですが………」

 サンダルフォンの言葉にテチアルは顔を伏せるが、サンダルフォンはそれには構わず、二人の僕に告げた。

「ウジアルのことはもうよい。奴が戻って来たなら直ぐに私の処によこせ。それと、ベリアルの召還には私も立ち会う。直ぐに用意しろ。それから、儀式にはお前達も参加しろ。よいな?」

 サンダルフォンの言葉に、二人の女性は顔を見合わせた。

「わ、私達もですか?」驚きの声をあげるグミアル。

 戸惑いの色を見せる僕に、サンダルフォンは冷たい一瞥をくれる。

「ベリアルはインプではない。サタンにはサタンの扱いがあると思え」

 言い放つサンダルフォンに、グミアルは頬を染めて項垂れ、テチアルも同様に顔を赤らめて同僚の様子を伺う。

 二人の僕の様子を傲然と見つめるサンダルフォン。

「分かりました、直ぐに用意をいたします」

 応じるテチアルに、サンダルフォンは満足げに頷いた。

 

 数刻後、ガラス張りの部屋に儀式の用意が調えられていた。伝統的な召還円が部屋の中央に描かれ、その中心には秘密めいた機械の塊が配されていた。

 そして、その四方には磔にされた四人の少女が配置され、その傍らには頭巾を被った男が二人ずつ立っていた。また、一人の少女の左右には男の代わりにテチアル、グミアルが立っている。

 少女は誰も十二・三歳くらいで、衣類は着せられておらず、手足を鎖で縛られていた。また、男達は半裸であったが、テチアル達は聖衣を身にまとっている。

 テチアルは冷たい石畳の上に立ちながら、ふと、ガラスの向こうにいるサンダルフォンを見やった。サンダルフォンはその表情に感情を表さず、冷たい瞳で儀式の用意が調うのを見守っていた。

 やがて、サンダルフォンが鷹揚に手を挙げると、それを合図に魔法陣の中心にある機械の塊、コアが低い唸り声を上げた。

 古来のサタン召還は複雑な手順の儀式を行わなければならなかった。別空間に存在するサタンと意志の疎通を図る為である。サタンは神によって、異なる因果律の空間に、ある者は知能を奪われ幽閉され、ある者は波動として存在させられているのである。

 その為、そうした特殊な状況下におかれた意識体と交信するには、相手の存在する状況を探り、それに見合った交信方法をとる必要があった。

 また、インプなどの小物と違い、オールドなどの名が冠せられるほどの大物は、より深い幽冥の空間に封ぜられており、召還の儀式もより複雑になっていく。

 しかし、サンダルフォンのとった方法はその複雑な手順を機械に肩代わりさせようと言うものであった。あらかじめ相手の幽閉されている空間や状況を探り、そのデータを元に機械による正確な算出で相手の空間にある種の波動を送り込む。

 波動を受けた意識体はコアを依り代に肉体を形成するのである。

 しかし、古代から変わらぬ要素がひとつだけあった。

 それは生贄である。

 たとえサタンとの交信に成功したとしても、サタンが現世(うつしよ)に興味を待たなければ、コアに宿ることはない。

 生贄はサタンの興味を引く為の、恰好の餌なのである。

 

 いつしか、コアの周辺はぼんやりと輝き、召還のペンタグラムが光の軌跡によって描かれていた。

 コアの唸りは単調であったが、その音は儀式の場にいる全員に、淫蕩な気分を湧き起こさせる。

 堪りかね、頭巾の男達は少女の身体にむしゃぶりつく。

「やぁ、だめぇ………」

 少女達は一様に身を捩って逃れようとするが、鎖に縛られている為、身動きもままならない。

 むっちりと肉付きの良い太股に手を這わせ、舌でぬるぬるに舐め回す。

 汗と、糸を引く唾液で、少女達の身体は次第に怪しげな光沢を放ち始める。

 その淫靡な光景に当てられたのか、それともコアの振動の影響か、テチアル達もいつしか、傍らに縛り付けられた少女の身体に手を伸ばしていった。

「いやっ!?やあぁっ!!」

 左右から太股に触れられ、縛り付けられた少女はがちゃがちゃと鎖を鳴らして逃れようとする。

 しかし、コア振動の影響は生贄となった少女にも確実に影響していた。

 少女が逃れようと藻掻くのは恐怖や羞恥心からではあるが、その実、身体が過敏になりすぎているからでもあった。

 実際、埋没していた乳頭は既に痛いほど勃起しており、じんじんと甘い痺れを脳に送り込んでいる。また、柔らかな肉割れはじっとりと湿っており、割り開くととろりと濃厚な蜜液が漏れ出すのは必定であった。

 左右から身体をいたぶられ、小刻みに身体を震わせる。そんな少女の反応は可憐で、愛おしさのあまり、グミアルは立ち上がると少女の唇を奪った。

 しかし、口を堅く閉ざし、少女はグミアルを拒絶する。

 そんな仕草もグミアルにとっては愛すべきものであり、傍らから手を伸ばすと、少女の鼻をつまむ。

 息苦しくなった少女は口を開き、グミアルはその開いた唇の間に舌を差し入れた。

 とろとろと唾液を流し込み、相手の唾液と混ぜ合わせて啜り上げる。逃げ惑う舌を絡め取り、くちゃくちゃとその柔らかな感触を愉しむ。

 グミアルはシフォンケーキのような柔らかな胸に手を這わせ、その飾りを指先で弄んだ。すると突然、少女の身体がぴくりと跳ね上がった。

 テチアルが股の間に顔を割り込ませたのだ。

 テチアルの目の前に秘桃が飛び込む。産毛と見まごうほどの楚々とした陰毛は秘裂を愛らしく彩り、折り畳まれた肉の袋が僅かに顔を覗かせる。

 テチアルはうっとりと溜め息をつくと、大淫唇に手を掛け、にちゅりと広げた。

 粘膜が外気に触れ、気流がひんやりとそれを撫でる。

 テチアルはそっと舌を伸ばすと、肉豆に触れた。

 少女の身体が再びぴくりと震える。

 鼻を押し付け、亀裂に顔を埋めるテチアル。

 少女の甘い匂いが鼻腔を満たし、肺に溢れ返る。

 テチアルはそのまま秘腔に舌を突き入れ、少女の蜜を啜り出す。

 いつしか、少女は抵抗しなくなっていた。

 テチアルの舌が肉壁を擦りあげる度に甘い吐息が漏れ、快楽に身を震わせる。

 他の少女も同様に、身体全体を撫で回され、舐め回され、快感にうっとりと浸っていた。

 見ると、コアがぼんやりと輝いて、ゆらゆらと淡い光が揺らめいている。

 グミアルは少女の滑らかな首筋に舌を這わしながら、横目でそれを確認した。

「(物質生成の場が形成されているの?浮遊分子が再構成されていく。ベリアルがコアを中心に肉体を構築しようとしているんだわ………)」 

 その時、じゃらりと言う音がして、少女達の縛め(いましめ)が解かれた。

 どさりという音がして、少女達は地面に転がった。

 這いずって逃げようとする少女達。磔にされている時には辱めの方法も限られているが、身体が自由になれば犯されてしまう。

 淫靡な気持ちにはなっていても、それだけは避けたいのか、少女達は青い顔をして逃げようとする。

 しかし、男達は下卑た笑いを漏らしながら、少女達の小さな身体に組み付いた。

「いやっ!!いやいやぁああっ!」

 背後から抱きつかれた少女が、血管の浮き出た肉棒を突き入れられて悲鳴を上げる。

 しかし、男は容赦なく腰を動かし、処女の締め付けにその動きを早めていった。

 白い太股を、赤い鮮血が滴り落ちていく。

 目を見開き、ぱくぱくと空気を求めて喘ぐ少女。

 そこへ、別の男が前から逸物をねじ込み、嗚咽の漏れ出る口を塞いだ。

「や、やめぇ………いやぁあっ!?」

 また別の少女は、逃げられないように片膝を抱えられた状態で淫裂を割り開かれ、血涙を千切る。

 また、その向こうでは下から子宮を突き上げられ、背後から菊門を犯されている少女の姿があった。

 皆一様に悲鳴を上げ、ぽろぽろと涙をこぼしながら男達の蹂躙に耐えている。

 しかし、一人だけ、呆然とした表情で座り込んでいる少女がいた。

 テチアル達に任された少女である。

「テチアル、私もう駄目………。この娘、先に頂いても良いかしら?」

 言いながら、聖衣を身体からするりと下ろすグミアル。理想的な大きさの、形の良い乳房が露わになる。

「い、いやぁあっ!!」

 呆然としていた少女が、突如悲鳴を上げる。グミアルの股間に、およそ似つかわしくない、グロテスクなモノがそそり立っていたからである。 

 逃げだそうとする少女をテチアルがその腕を掴み、乱暴に引き寄せる。

「逃げないで、直ぐに気持ち好くしてあげるから………」

 少女は反射的にテチアルの股間に視線を移した。

 やはり股間は大きく膨らんでおり、少女の顔はますます青ざめる。

「そうよ、これがあなたのお腹の中をたっぷりと掻き回すの………」

 少女の視線に気が付いたテチアルが囁いた。

 そこへ、発情しきったグミアルが、少女の唇を奪い押し倒した。最早陰茎は痛いほどに勃起し、柔らかな粘膜に撫でさすられることを渇望していた。

 太股を絡ませ、少女を抱きすくめるグミアル。ほんのりと桃色に上気した四つの乳房が、美女と少女の間でむにゅむにゅと変形し、踊る。

 ねっとりと汗ばみ、身体がまるで溶け合うようであった。

 少女の身体を舐め回すグミアル。

 少女の目に飛び込むのは美しい顔、そして乳房。身体は女の物でありながら、股間には凶暴な男の象徴がそそり立っている。

 混乱する少女を余所に、グミアルは陰茎を突き入れた。

「んんんぅ!!?」

 唇を塞がれたままの少女は、大きく目を見開き、口の中で悲鳴を上げた。

 ぶちりと音がして、処女膜が破られる。 

 激痛に顔を歪める少女。

 少女の体内に迎え入れられ、グミアルの剛直は痛みを忘れ、快美感に包まれていった。

 温かく、柔らかな肉の壁が四方から包み込み、襞がぬめりを帯びてまとわりつき、絡み付く。

 そして、きゅうきゅうと握りしめてくるようでもあり、処女の圧力は得も言われぬ絶妙の圧迫感でグミアルを虜にした。

 少女の細い腰に手を回し、とことん根本の方にまで押し入れる。そしてまた、その感触を味わうようにゆっくりと引き抜き、こぼれそうになる直前で再び押し込んでいく。

 その度、じわりじわりと快感が沸き上がり、やがて、腰の動きが我知らず早まっていく。

「ねえ、グミアル、グミアルゥ………。私も混ぜてぇ……」

 これまで傍観していたテチアルが堪りかね、衣の裾をまくり上げ、口に咥えて陰茎を露出させる。

 そのあまりに色っぽい仕草に、グミアルはテチアルの物をぱくりと飲み込んだ。

 腰を揺すりながら、テチアルの逸物を貪るグミアル。

 倒錯的な快楽にテチアルは我を忘れ、組み敷いた少女の花心をぐちゃぐちゃと掻き回した。

「んぁあ、もう、もうやめてぇ………」

 少女が悲鳴とも嬌声ともつかぬ声をあげる。

 いつしか痛みは薄れ、女の喜びに目覚めつつあるのだ。

 愛液を止めどなく溢れさせ、少女の花弁はグミアルを舐め回す。

「んぅ、き、気持ち良い、よ、ぉ……」

 熱い肉棒を突き入れられる度、少女はよがり泣いた。

 手足を絡め、しがみつき、肉棒をより深くへ飲み込もうと、腰をぐいぐいと押し出す。

「んむぅ、んくぅ………」

 グミアルも、忘我のままに泥濘を掻き回した。

 少女のそこは、まるで溶けたバターのように熱く、柔らかく、また蜜を湛えた食虫花のように、グミアルの淫棒をとろけさせる。

「はんぁあっ!!だめぇ、そんなに強く吸っちゃあっ!!」

 悲鳴を上げるテチアル。

「ひんぅっ!?や、やはぁっ!!あそこが変になっちゃうぅううっ!!」

 手足をかくかくと痙攣させ、少女は泣き叫ぶ。

 やがて、快楽の波が押し寄せ、三人は絶頂へと押し流された。

「あんっ、や、やああぁぁああっ!!!」

 ぶっしゃあという激しい音と共に少女は淫水を吹き出し、それに呼応するようにグミアル、テチアルも強かに精を打ち放った。

 ごぽごぽと精液が漏れだす。

 グミアルはテチアルが出した濃厚な樹液を、喉を鳴らして飲み下した。

 口元から白濁液が漏れ、顎を伝う。

 折り重なり、快楽の余韻に浸る三人。

 見ると、他の三組はまだ荒淫を続けている。

 涙に滲む視界の端に、その様子を捉えていたグミアルであったが、空気が重く、ぬめりを帯びてきていることに気が付いた。

 耳の奥で、微かに人の声がする。

『………我ニモ喰ワセロ』

 グミアルははっとして起きあがった。

「テチアル、逃げてっ!!」

 叫びと共にグミアルはテチアルを突き飛ばし、翼を大きく広げると、少女を掴んで召還円から飛び出した。

 何者かの声が、明確なものへと変わる。

『我ニ身体ヲ………』

 召還円の中に居た人間はその声に戸惑ったが、何が起こったのか分からずに呆然としたままであった。

「ひぃっ、なんだこりゃあっ!!」

 男の一人が悲鳴を上げた。

 空気が軟体動物のように、男の、少女の身体を包み始めたからだ。

「いやぁっ!!」

「た、助けてくれぇっ!!」

 慌てて召還円の外に逃げ出そうとするが、時既に遅く、実体を得つつある空気が黒く染まり、やがて生贄達を飲み込んでいく。

 いつしか召還円の中には黒い靄が吹き出し、命あるもののように揺らめいていた。

 生贄の悲鳴も次第に小さくなり、やがて消えていった。

 呆気にとられ、事の成り行きを見守る少女。

 グミエルとテチアルも、これまで何度もサタン召還には立ち会ってきたが、やはり固唾を飲んで黒い靄を見つめている。

 次第に靄が晴れ、中から黒い人影が姿を現す。

「この身体はどうにも私の美感には合わないのだがな………」

 人影が声を漏らす。

「き、きゃああっ!!」

 グミエルの腕の中で、助けられた少女が悲鳴を上げ、そのまま意識を失った。靄の中から現れた人影は、あまりにも禍々しい、悪夢のような怪物だったからだ。

 まず目に入ったのは端正な白い顔。それは美しい女性のものであった。そして、黒い剛毛に覆われた獣の身体。頭の両側からは山羊のような角が生え、肩、胸、腹、そして前からは見えないが背中にと、合計六つの顔が貼り付いている。また、複数の顔故か、腕も三対生えており、獣毛と鱗に覆われていた。そして、背には黒い皮膜の翼が二対あり、股間からは陰茎が何本も反り返っている。

 怪物はその陰茎で三人の少女を同時に犯しているのだ。

 

 ベリアル。その名は「無価値」に由来する。

 また、中世の詩人曰く「堕天した天使のうち、彼ほど淫蕩な者はなく、また彼ほど悪徳の為に悪徳を愛する下卑た者はいない」

 

「この身体はどうにかならなかったのかい?これじゃあ、まるで化け物だ」

 怪物はガラスの向こうに立つサンダルフォンに話しかけた。

「無理を言うな。身体があるだけでもましだと思うのだな」

 応じるサンダルフォン。

「はん、ましと言えばナニが何本もついていると言うことくらいさ。で、僕を召還したのは一体何事だい?」 

 ベリアルは大袈裟に肩をすくめると、軽い調子でサンダルフォンに問い掛けた。

「機械の神が巻き戻りを始めた。全宇宙の知的生命体を根絶やしにして、また宇宙を無に帰そうとしている」

 やや、眉を曇らせて、サンダルフォンは告げるが、ベリアルは一向に意に介した様子を見せなかった。

「それが自然の摂理ってやつだろ?僕達には関係ないさ………」

「私はその傲慢さが許せないのだ……」

 苦々しい表情で、サンダルフォンは応じた。ベリアルは面白いものでも見るかのようににやにやとサンダルフォンを見つめている。

 その様子に、テチアルは苛立ちを覚えたが、サンダルフォンが何も言わないのに自分が差し出がましいことは出来ない。今は少しの助力でも必要なときである、ましてやベリアルは力あるサタンなのだ。

「その為に、この惑星の人類を好き勝手にしているのか?矛盾しているな」

 ベリアルの言葉に、サンダルフォンの眉がぴくりと持ち上がる。

「この星の人類、その一部に、遺伝子に刻印を持つ者がいる……」

 サンダルフォンがそう告げると、ベリアルが一瞬面食らった表情を見せた。

「………なるほど、だからと言って、勝てる見込みがあるのか?僕は御免だね」

「初物をもう二・三用意しよう」

「………ここの原住民はけっこうな美味だけどね、でもね」

「天使を一匹やろう。或いは、コアを停止させる」

 コアを停止されるとそれを依り代としているベリアルは消滅してしまう。しかし、そんな切り札を突きつけられても、ベリアルは不敵な態度を変えなかった。

「ふうむ、仕方ない、それが今回の契約なわけだね」

 そう言うとベリアルは、部屋の片隅で事の成り行きを見守っているテチアル達を振り返った。

 その舐め回すような視線に、テチアル達は身を固くする。

「人選はこちらに任せろ。上等の天使をくれてやる。ただし、契約を違えた場合は容赦はしない…」

「ふふふ、心配は無用だよ。僕はこう見えて約束を破ったことはないんだ」

 そう言うとベリアルは、下卑た笑いを見せた。

 

 

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