○魔法少女 ちゅうかなしゃんりぃ!
「風雲竜巻編U」
「そろそろ…………」
例によって、気取って前髪を払う黄眉童子。
「そろそろ君の兄上達が、助けに来ても良い頃なのにねぇ」
寝台に腰を下ろし、揶揄する。
梅花は冷然と相手を見下ろしている。
「私が勝てぬのに、どうして兄上達が貴様に勝てる道理がある?顕聖真君ならいざ知らず………」
憮然と口を開く梅花。
「ふん、なら真君が来ればよい。か弱い女性に先陣を切らせ、捕まっても助けにもこぬ。真君なら勝てるというのなら、今直ぐにでも来ればよいのだ」
そう言って、傍らの卓子に手を伸ばし、茶を注ぐ。
「お前では役不足と言うことだろう。天界からの追求を怖れ、下界を逃げ回っているお前に、どうして顕聖真君が立ち会ってくれよう?ましてや、女を盾に取る卑怯者に………」
梅花の言葉に、黄眉童子のこめかめに太い青筋が立つ。
「相変わらず手厳しい………」
碗を干し、薄く笑う邪妖。
しかし、眼は笑ってはいない。
碗を手荒く壁にぶつけると、黄眉童子は立ち上がり、梅花の細い腰に手を回す。
かちゃりと音がして、童子の喉元に神刀の切っ先が突きつけられる。
「斬ればよい。君のような美しい女性に殺されるなら、本望というものだ」
ぷつりと音がして、童子の喉元から小さな血玉が滲みだし、鎖骨へと伝う。
童子、さしたる動揺も見せず、梅花の華奢な手首を掴むと刀を下ろさせ、唇を奪った。
「ん、むぐぅ………」
体を離そうと藻掻く梅花。
「無駄な話はやめて、そろそろ本題に入ろう………」
先程の卓子から茶の入った碗をとると、黄眉童子は喘いでいる梅花の口に流し込んだ。
「ぐ、ごほっ!」
むせる梅花。
「例え真君が来ようとも、この淫虫はどうにも出来まい?」
黄眉童子の手が、腰から尻に移動する。
つきたての餅のような柔肉に手を這わせ、その感触を楽しむ。
「………けほっ、いつまでも、逃げおおせるわけでもあるまい?んくぅっ!」
茶の効用か、梅花の身体に異変が生じ始めた。
「ふん、そろそろ効いてきたのかな?まさしく御邪魔虫には、早々に退散してもらわねばな。………弥勒の降臨は五十六億年も先の話、それまでは逃げおおせるだろうさ」
そう言って、眼を細める黄眉童子。
「ふふん、流石の、…………あんぅっうう!…………老仏様も、主人には逆らえぬと見える」
頬が上気し、目に涙が滲む。
すると、ぼとりという音がして、梅花の股間から淫虫が抜け落ちる。
淫虫は半分溶解しており、見る間にその姿を、どろりとした液体に姿を変える。
黄眉童子は淫虫が溶け落ちたのを確認すると尻をさすっていた手を潜らせた。
「御邪魔虫の御退散だ………」
そう言って笑うと、指を膣に潜り込ませる。
「いあっ!」
小さく悲鳴をあげる梅花。
白い肩がわなわなと震える。
「どうしたのかな?淫虫の攻めに耐えられる君でも、淫虫の体液による催淫効果には逆らえないようだね?」
ぬるぬると壁の内側を擦り、指を出し入れさせる黄眉童子。
梅花は淫戯に耐え、身体を小刻みに震わせる。
足に力が入らなくなり、黄眉童子の身体を預けてしまう。
柔らかな乳房が潰れ、勃起した乳首が黄眉童子の胸をくすぐる。
黄眉童子は梅花の顎を持ち上げると、再び唇を奪った。
「んむぅ………」
濡れた下唇を甘噛みし、舌を差し込み、少女の口内を犯す。
逃げ惑う柔らかな舌を絡め取り、歯茎をなぞり、唾液を啜る。
やがて、十分に堪能した黄眉童子は顔を離す。唾液が糸を引き、蜘蛛の糸のように下がる。
「はぁ、はあ、……あはぁ」
解放され、黄眉童子にもたれかかる梅花。
童子は梅花を抱えつつも、寝台に腰を下ろす。
膝をつく梅花。
「さぁ、私のも可愛がっておくれ」
そう言って股を開く黄眉童子。
赤黒い陰茎がそそり立つ。
「……………………………………………」
顔を背ける梅花。
しかし、黄眉童子は強要することなく、薄い笑みを浮かべ、ただ座っているだけであった。
甘い疼きが梅花の腰を支配していた。
得体の知れぬ渇望が、梅花をそそのかす。
顔を背けながらも、潤んだ瞳で男のものを一瞥する梅花。
白い喉元が微かに動き、ごくりと唾液が飲み下される。
やがておずおずと少女の指が、剛直に添えられた。
あどけない口元が薄く開き、唾液にぬめった舌が顔を覗かせる。
ぴちゅ。
亀頭の先端に、少女の熱い舌が触れる。
たっぷりと唾液を含ませた舌が、陰茎に絡み付き、ぬるぬると這い回る。
梅花は丹田に、奇妙な充足感を覚えていた。
一度男のものに口をつけると、後は止めどがなかった。
小さな口を精一杯開き、亀頭を頬張る梅花。ある種の飢えが梅花を突き動かし、少女は男のものを必死で貪った。
理屈などはなかった。
ただひたすら、男根から絞り出される樹液が恋しかった。
口一杯に陰茎を咥え込んでいるので、唾液を飲み下すことが出来ず、梅花の口内はどろどろにぬかるんでくる。
柔らかな舌が陰茎を這い回り、しごき、絡め取る。
鈴口に舌を這わし、先走りの汁を舐めとる。
「そろそろ御褒美をやろう」
そう言うと黄眉童子は梅花の頭に手を添えると、腰を揺すり始めた。
「君の口の中は…………はぁ、はあ、………熱くて、ぬるぬるで、………最高だ………」
梅花も黄眉童子の陰茎を咥えたまま離さない。
「梅花ぁあああああ、あおおおおぁ、だすぞおおおおおっ!!」
黄眉童子の背骨を電気が流れる。
「梅花ぁああああああっ!!」
次の瞬間、濃厚な樹液がたっぷりと、梅花の口内に吐き出された。
糸を引き、ぬるりと抜き出される陰茎。
梅花は喉を鳴らし、精液を飲み下す。
そして、顎に滴る一滴までも、名残惜しそうに指ですくい、濡れた唇に押し込んだ。
「君はそうしている時が一番可愛い………」
ため息混じりにそう呟くと、黄眉童子は梅花を寝台に押し倒した。
首筋に舌を這わし、鎖骨を舐め、胸の膨らみに到達する。
梅花の乳房は程良い大きさで、形もお椀を伏せたような綺麗なものであった。
一段高くなった乳輪に、乳房を飾るように咲く乳首。
乳首は既に隆起しており、黄眉童子はそれを口に含んだ。
「あっ………」
ぴくりと反応する梅花。
もう片方の手を反対の乳房に添え、やわやわと揉みしだく。
ちゅうちゅうと、まるで赤ん坊のように吸い付く黄眉童子。
舌で転がし、時には甘噛みする。
「あんぅっ………」
鼻に掛かった甘い吐息が梅花の口から漏れる。
両方の乳房を丹念に舐め回した黄眉童子は、舌を腹部へと移動させた。
ちゅくちゅくと舌を差し込み、丹念にへそを舐める黄眉童子。
そして、舌は下腹部へと移動する。
淡く煙る和毛を通り過ぎ、舌は陰核へと辿り着く。
「やああぁっ………」
敏感な部分を攻められ、梅花の腰が跳ね上がる。
黄眉童子の頭をのけようと、懸命に手を伸ばす梅花。しかし、頭をのけるどころか、頭を鷲掴みにし、必死に腰をすりつける。
白く、柔らかな太股が、黄眉童子の頭を左右から締め付ける。
黄眉童子は梅花の淫裂に舌を這わし、少女の反応を楽しみながら蜜を貪る。
やがて、黄眉童子は梅花の股ぐらから離れた。
手の甲で、唾液と愛液を拭う。
「お願いぃい、もっとぉ、…………もっとぉ」
中途半端で愛撫をやめられ、潤んだ瞳で続きを哀願する梅花。
上気した頬に、滲み出た汗で後れ毛が張り付いている。
哀願されるまでもなく、黄眉童子はここで止める気など毛頭なかった。
のっぺりとした亀頭を、淫裂に添える。
花弁を左右に押し広げながら、陰茎がめり込んでいく。
その様子を、梅花は熱っぽい眼差しで見守る。
淫唇が木の葉型に、きちきちと拡げられる。
「あぐぅう………」
喘ぐ梅花。
敷布を掴み、快感に耐える梅花。
背中が反り返り、足が引きつり、弓なりとなる。
白い腹部がわななき、息が詰まりそうになる。
ずぶり、ずぶりと陰茎が沈み込んでいく。
「ああぁぁぁんぁ………」
眉根を寄せ、恍惚とした表情が浮かぶ。
やがて、熱い鉄棒の様な剛直が、根本まで飲み込まれた。
腰をわずかに引く黄眉童子。御馳走はゆっくり味わうものだ。
ぐちゅりと音がして、淫唇が引きつれる。
甘い痺れが腰に拡がり、嬌声を漏らす梅花。
「…………あん、………も、もっとお……んっ……ああ…」
少女のおねだりに、黄眉童子はひどく満足げな表情を浮かべる。
「もっと、なにかな?」
陰茎が抜ける寸前まで腰を引く黄眉童子。
次の瞬間、腰を一気に打ち付ける。
「きあっ!!」
梅花の腰が跳ね上がる。
「いやあ、意地悪しないで………」
軽く頬を膨らませ、梅花は拗ねて見せた。
「ふふ、君はまるで小悪魔だ。僕の心をこんなにも焦がす」
そう言って、梅花の幼い乳房に唇を這わす。
「あああ、………い、……………よぉ………」
細いかいなを黄眉童子の身体に巻き付かせ、梅花は身体をぴくぴくと痙攣させる。
黄眉童子も耐えきれず、腰の動きをだんだんと早めていった。
「あん、あん、………あん、……っきもち………よぉ」
梅花も、黄眉童子の腰に動きを合わせ、必死に快感を得ようとする。
じゅぶじゅぶと愛液が溢れ、太股を伝い、尻穴を濡らす。
「あん、あんぅ、気持ち好い………」
譫言のように繰り返す梅花。
腰の動きが更に加速する。
最早黄眉童子は摩擦運動を止められずにいた。
梅花の蜜壺は熱くぬかるみ、ぬるぬると陰茎に絡み付いてくる。
それに連動するかのように内壁は収縮を繰り返し、竿を締め上げる。
快感が後から後から湧き上がり、二人の意識を支配する。
「あんっ!好いのおぉ、………ごりごりしてぇ………あん、あん、あああんぅ」
梅花のよがり声が、耳に染み込む。
「あん、あん、っああ、………気持ち好い、んあっ!ああぁんぅ!!」
とろとろにとろける秘肉。その感触に酔いしれる黄眉童子。
がつがつと腰を打ち付け、陰茎でごりごりと中を刺激する。
「あん、あん、あん、きもちいいひいあ………あうぅんっ!!」
黄眉童子の背中に爪が立てられる。
背中の左右にみみず腫れが出来、血が滲む。
しかし、今はそれすら心地よい。
「あんっ、あんっ、あんっ、あんっぅ、気持ち好いのお、あんぅ!!おちんちんが、ごりごりごりごりって、気持ち好いよおおおおおおっ!!!」
どくり。
熱い塊が、梅花の内部に注ぎ込まれる。
「ああああああああああああああうううぅぅぅっ!!!」
梅花の頭の中が白く弾け飛ぶ。
びゅくびゅくと膣内が痙攣を起こし、精がどくりどくりと際限なく吐き出された。
少女の上に倒れ込む黄眉童子。
心地よい疲れが身体を包み込んでいる。
数時間後。
何時の間に眠っていたのだろうか、黄眉童子が目を覚ますと、彼の脇の下ですやすやと、安らかな寝息を立てている梅花の顔があった。
柔らかそうな頬を指で何度か押してみる。
ふにふにと柔らかな感触が、指先に滲む。
そうして、黄眉童子は自嘲気味に薄く笑うと、寝台から体を起こそうとした。
が、しかし。
こめかみがずきりと痛み、身体に力が入らない。
手をつこうとするのだが思うようにいかない。
「……………これは?」
異変に気が付く黄眉童子。
「…………そ、そうか、この娘、吸精交淫の術をかけていたか」
事態が把握できとは言え、身体が思うようにいかないことに変わりはない。
安らかな少女の寝顔が、突然憎らしいものへと変わる。
「ふ、ふふふ…………」
何を思ったか、突然笑い出す黄眉童子。
「あははは………。可愛いものじゃないか………」
どうせ何をするでもない、しばらくは少女の戯れに付き合うのも一興。
黄眉童子は起きあがるのを諦めると、再び眠りについた。
村の娘達が人質である以上、殺されることはない。
それと前後して、梅花が目を覚ます。
眠る黄眉童子の顔を見て、くすりと笑う。
「老仏様、………よい夢を御覧になりましたか?」
翌朝。
じゃらじゃらという鍵の音が、地下の牢獄に木霊する。
刀を背に掛けた梅花が、牢番に連れられて戻ってきたのだ。
梅花の顔は、黄眉童子から吸い取った精のお陰で顔色が良く、艶やかであった。
しかしながら、股間には、やはりあの忌々しい蟲の尾が垂れ下がっており、時折びちびちと躰をうねらせ、梅花を苛む。
尤も、梅花の強靱な精神力は、この蟲のいたぶりを、まるで感じさせなかった。
「あぅあああぁぁぁっ!!あぐぅっ!!だ、駄目アルぅうっ!!」
石牢の側まで近づいたとき、突然、香麗の喘ぎ声が響き渡った。
軽い目眩を覚え、思わず、こめかみを押さえる梅花。
「(まったく、又、誰かの相手をさせられているの?あのお人好し加減、何とかならないのかな?)」
梅花は心の中で唸った。何しろ、此処を抜け出し、黄眉童子の首を取るためには、仙人の修行を積んだ香麗の協力が不可欠だ。それがあの有様では、先が思いやられる。
ともかく、今の相手が済んだら、無理矢理にでも割り込んで、香麗を解放するしかない。 そう考えて、梅花は石牢の扉をくぐった。
「………………………………!?」
次の瞬間、梅花は言葉を失った。
まるで砂糖に群がる蟻の様に、村娘達が香麗の躰を思い思いに愛撫していたのだ。
ある者は香麗の股間に顔を埋め、ある者は乳房に吸い付き、また、ある者は自分の秘部を香麗の顔に擦り付けていた。
香麗は、拒もうにも、上や下から攻められ、右や左から絡み付かれ、混乱して、唯々、悶えるばかり。
そうして、遊びに加われぬ者は、香麗の痴態を面白そうに眺めていた。
「……………………あなた達、一体何を………?」
梅花は驚愕の為、外れ掛けていた下顎を戻し、ようやく、それだけを口にした。
「んくぅ、………ぷは。………だって、この娘可愛いんだもん」
梅花の問い掛けに、香麗の股間に顔を埋めていた少女が答える。
余程香麗の愛液が気に入ったのか口の周りから顎の先まで愛液と唾液でぬるぬるにしており、それだけ答えると直ぐに淫らな愉しみに戻った。
「そうそう、このおっぱいなんかこんなに大きくて、こぼれそうなのに、形を保ってるところが良いのよね」
香麗の左の乳首に吸い付いていた娘が顔を上げる。
「これだけ大きいのに乳輪なんかそんなに大きくなくて、薄い桃色しちゃって、ほんと、食べちゃいたい」
右の乳房に舌を這わしていた少女が顔を上げる。言いながらも、香麗の乳首を指先でこね回している。
「何よりこの悶えてる顔が良いのよね………」
香麗に淫裂を擦り付けていた娘が身体をどけ、香麗の首筋に絡み付き、唇を奪う。
喘ぐ香麗の舌を絡め取り、唾液を啜る。
「ああん、早く代わってよ〜おっ!!」
香麗の痴態を眺めていた一人が切なげに身を捩る。
思わず溜息をもらす梅花。
「(こんな連中を人質に取られて、捕まった私って一体……………)」
梅花の足下を、乾いた風が吹き抜ける。
何はともあれ、香麗にへばりついている村娘達を引き剥がし、梅花は牢の片隅で香麗が回復するのを待った。
香麗は横たわり、憔悴しきった様子で荒い息をついている。
牢屋に残った香麗が疲れ切った様子で横たわり、夜伽に出され、一晩中相手をさせられていた梅花の方が気力が戻っているなどと言うのは、何ともおかしな話である。
梅花は薄く笑うと、香麗の方を見た。
香麗は背中を丸めて寝ており、梅花の方からは白いお尻と、ぬらぬらと妖しげな光沢を放つ淫裂が丸見えになっていた。
淫戯の名残か、香麗の秘芯はびゅくびゅくと蠢いており、生々しく光る。
「ほんと、好い身体してるよね…………」
自重で腕になだれかかっている乳房や、柔らかそうな太股、丸いお尻。そして、涎を垂らして見る者を誘う淫唇。
梅花はごくりと唾を飲み下した。
「(やだ、私ったら、何考えてんだろ………?)」
梅花はふと、腰の奥から甘い痺れが拡がるのを感じた。
「(いけない、いけない………。色即是空空即是色…………)」
目を閉じ、淫らな妄想を追い払おうとする梅花。
小西天の中腹、昨日、まいと二匹の邪妖が淫行に及んだ川の畔に、一人、美貌の青年が立っていた。
使い込まれ、身体に馴染んだ鎧を身に纏い、得物は三尖両刃の特異な矛、腰には弾弓を下げており、何処をとっても手練れの武人である。
傍らに巨大な犬を従えたその男は、何やら思案に暮れていた。
ふと、その時、男の足下に伏していた犬がぴくりと何かに反応し、低く唸り始める。
「何を憂えておられるのかな?昭恵霊顕王ともあろうお方が…………」
何時の間に現れたのか、男の背後に立つ元始天尊。
「ふん、伯父上か………」
鼻を鳴らし、呟く男。元始天尊の方へ顔を向けようともしない。
「梅花のことが心配で見に来たか?二郎真君」
男の不遜な態度も気にせず、天公は言葉を続けた。
「それにしても妬けるのお。あの娘、ほんに好い身体をしておるからのう。特にあの太股ときたら…………」
下卑た表情を見せる元始天尊。真君はあからさまに不快な顔を見せる。
「何をしにいらしたのかな?伯父上は」
感情を必死に押し殺し、二郎神が訊ねる。
「お主と同じじゃよ。儂の一番弟子が黄眉童子に捕らわれてしまったからの」
白髭を弄りながら、元始天尊が飄然と答える。
「一番弟子?」
二郎神が眉根を寄せ、訝しげに聞き返す。
「香麗と言っての、これがまた好い乳を持っておるのじゃ………」
再び下卑た表情を見せる天公。
「成る程、で、助けに行かれるのかな?」
二郎神は気にせず質す。
「無論じゃ、あの乳は絶品じゃからの、と言いたいところだが、それでは魔障が済まぬしのぉ………。お主の方はどうなのじゃ?梅花を助けに来たのではないのか?」
元始天尊の言葉に二郎神の視線がわずかに揺れる。
「まさか。伯父上と同様、様子を見に来ただけです」
「だろうのぉ。そちの心はあの石猿のことで一杯であろうからな。梅花など眼中に無いか。ほっ、ほっ、ほっ………」
二郎神が言い終わらぬ内に、天公は嘲弄の言葉を吐く。二郎真君のこめかみに、太い青筋が浮かび上がる。
「猿とは言え、あの娘はほんに美形であったからのう。美猴王とはよく言ったものじゃて。今思い出しても涎が出るわ。あの柔らかなお尻に顔を埋めたときの感触が…………」
次の瞬間、振り向き様に二郎神が矛を横一文字に薙ぐ。
ごとりと音がして、天公の首が地面に転がる。
その首を踏みにじる二郎神。
「この狒狒爺がっ!!ちったあ、その口を閉じられねぇのかぁっ!!!」
顔を怒りでどす黒く染め、猛り狂う二郎神。
「いでで………。何を怒っておる」
踏みにじられた首が口をきくが、二郎神はさして驚きもしない。
「やれやれ、短気な奴じゃ………。儂はもう帰るからの、あとは好きにせい。観音娘娘が寂しがっておるからの、早く行ってやらねば………」
そう言って天公の身体は首を拾い上げ、小脇に抱えたまま姿を消した。
後に残された二郎神は、暫く思案していたが、やがてにやりと薄く笑うと呟いた。
「香麗娘娘か………。ふむ、もう暫く放っておくか………」
「要するに、あの黄眉童子という奴は、観音娘娘を手込めにした上、弥勒菩薩の鐃ばちを割って下界に逃走してきた極悪人というわけアルね?」
ようやく回復した香麗が、黄眉童子の天界での悪事を聞き、正義感を燃やす。
「まぁ、大体はそんなとこね………」
「それにしても、観音娘娘を手込めにするなんて、なんて酷い奴アルかっ?!」
香麗は自分がされたことと重ね合わせ、怒りに声を荒げる。
「いや、それはいいの」
梅花が、こともなく告げる。
「……………へ?」
間の抜けた声を出す香麗。
「観音娘娘が黄眉童子に襲われたことは問題じゃないの。弥勒菩薩の鐃ばちを割って、下界に逃げた事が天界で問題になっているの。観音娘娘の事は、あの人らしいって事で、さして問題じゃないの」
「は、はぁ…………」
香麗は天界の事は良く知らないが、問題になっていないと言うのなら、そうなのだろう。
「ともかく、此処を逃げ出そうと闇雲に飛び出しても、この淫虫を何とかしない事にはどうにもならないし………。あなた、仙術の修行を積んでいるのなら、蠱毒の事にも詳しいでしょ?どうにかならないの?」
梅花の言葉に、香麗は首を傾げる。
「う〜〜〜〜ん、普通の蠱毒なら、みょうがの根が効くアルけどねぇ………」
「それならイの一番に試したよ。でも、効かなかった。蠱主に術を返されないように、並の蠱毒じゃないみたい」
梅花の言葉に、香麗はますます首を傾げる。
「…………一見、蠱毒の様にも見えて、実は全然別の術なのかも知れないアルねぇ………」
「それは、まあ、分かってるんだけど………」
考え込む二人の少女。
考えても、知らない事は思い付きようもなく、梅花が癇癪を起こす。
「ああああああ〜〜〜っ、いらいらするっ!!これが自分の子供だって言うのなら、多少の我慢はするけど、こんな薄気味の悪い虫じゃぁ…………」
「それアルっ!!」
梅花の言葉を遮って、香麗が叫ぶ。何か思いついたようだ。
「それって、気味の悪い虫?」
「違うアル、子供アルよ。落胎泉の水を使って、蟲を溶かすアルよっ!!」
梅花はまるで飲み込めずにいたが、香麗は至って真剣であった。
「何?その何とかって………?」
「子供を堕ろすのに、落胎泉と呼ばれる泉の水を飲むって、聞いたことがあるアル。その泉の水を飲めば、もしかするとその蟲も溶けるかも知れないアル」
香麗の言葉に梅花は、夜伽をする前に飲まされる茶のことを思い出した。
「そうか!あの茶だっ!!」
今度は梅花が叫んだ。
「夜伽をするのにこの虫は邪魔になる。だからその前には一時的に術が解かれるの。その時に、どうしてだか必ず茶を飲まされる。もしあの茶が落胎泉の水で入れられたものだったら…………」
二人の顔が一転して晴れやかなものに変わる。
「そうと決まれば、善は急げ。此処を出ましょ」
そう言って立ち上がる梅花。
つかつかと廊下側に向かうと、刀を振り下ろし、まるで大根でも切るように、こともなげに鉄格子を切り落とす。
「な、何をしやがるっ!!」
驚いた牢番が、得物を振りかざして襲いかかるが、これも、まるで豆腐でも切るように両断する。
何が起こったかも分からない様子で、牢番は目を見開き、真っ二つにされた。
梅花の行動の早さに、香麗は唖然として見守る。
「さ、行くよ?」
促され、梅花の後に続く香麗。おっかなびっくり、牢番の死体をまたぐ。
ずかずかと廊下を進み、玄関を目指す梅花、そして香麗。
遠巻きに、黄眉童子の手下が取り巻くが、誰一人、襲ってくる者はいない。梅花の刀の腕を良く心得ているからだ。
梅花が此処に乗り込んできたときの記憶はまだ新しい。黄眉童子が人質を盾に取るまで、瞬きする間に三人は殺され続けたのだ。迂闊に近づけば、三枚におろされるのは必定だった。
やがて、香麗が最初に通された本堂にまでやってくる。
「ふん、どうした風の吹き回しだ、梅花?人質がいることを忘れたわけでもあるまい?それと……………」
黄眉童子は視線を香麗に向けた。視線が熱っぽい。
背筋に悪寒が走り、思わず、梅花の後ろに隠れる香麗。
「麗しの君よ、君までそんなはしたない格好で何処へ行くつもりだい?」
香麗の代わりに梅花が答える。
「そろそろ此処の食事にも飽きてきたので、お暇することにしたんだ。それに、人質と言ったって、お愉しみの道具だ、簡単に処分したりはしないだろう?」
梅花はそう言って、刀の切っ先を黄眉童子に向けた。
「ふん、賢しいことを…………。君たちは、僕のことを相当侮っているようだな………」
そう言って、黄眉童子は狼牙棒を取り出す。
御大将の不敵な態度で烏合の衆に活気が戻り、にわかに殺気立つ。
梅花の刀を握る手に力がこもり、敵に切り込もうとしたその時。
「大の男達が、寄って集ってか弱い少女をどうしようって言うんだ?」
突然、堂内に謎の男の声が朗々と響き渡った。
「ふあぁ〜あ…………」
巨大な歩くガラクタ、竜巻ファイターの上で、退屈そうに大きな欠伸をするまい。
蠍さん達と遊んでもらって以来、何の玩具も見つけられず、ずっと退屈な時間を過ごしているのだ。
と、その時である。
銀光がまいの視界の端をかすめた。黄眉童子の悪趣味な根城、小雷音寺が陽光を反射したのだ。
「お城だ〜っ♪♯ 」
ついに玩具を見つけたまいが、喜色を満面に浮かべて叫んだ。
小雷音寺が心なしか怖じけたように見える。
「竜巻ファイタァ〜〜っ!!れぇっつごおおおっ♪♯」
「な、何だお前達はぁ?!」
黄眉童子の誰何の声に、二人の男が気取って現れる。
男達の傍らに、黒麒麟が連れられており、香麗の愁眉が開かれる。
「か弱き者を助け、悪を懲らす正義の人………(勿体を付け)その名も………」
「何だ、蠍精と蛇精ではないか。何をしておる?」
蠍精が言い終わらぬ内に、黄眉童子が正体を看破する。
「あ〜〜っ、人が良い気持ちで名乗りを上げているのに、途中で正体を見破るなよっ!!」
蠍精が地団駄を踏む。
「訳の分からないことを言ってないで、助勢せんか。梅花が牢を破った」
蠍精のことなどさして気にも留めず、黄眉童子は梅花に向き直る。
「むああああっ!!何だ〜っ!その態度は?!大体、俺達にだって名前くらいはあるんだあっ!!それを………」
気炎を吹き上げる蠍精。
それでも黄眉童子は意に介さない。
「分かった、分かった、聞いてやるから早くしろ」
黄眉童子がぞんざいにあしらう。
「えっ?そうですかぁ?それじゃ遠慮なく」
持って生まれた性分か、思わず相好を崩し、蠍精は会釈した。
「時間がないんだからな、手短に頼むぞ」
うんざりとして告げる黄眉童子。
「へへ、そりゃあ、もう………おほん、か弱き者を助け、悪を懲らす正義の人。その名も紅き一番星、天目蠍っ!!」
びしぃっ!!
華麗に気取った姿勢を決める蠍精。
「お、同じく、白い流星、白華蛇っ!!」
どびしぃっ!!
傍らにいた蛇精も同様に気取った姿勢を決める。
「(き、決まった………)」
名乗りが決まり、じーんと感動を噛み締める蠍精と蛇精。
「よし、終わったな………」
そう言うと、黄眉童子はさっさと梅花に向き直る。
姿勢を維持したまま放って置かれる紅き一番星天目蠍と白い流星白華蛇。
「………………」
二人の足下を乾いた風が吹き抜ける。
「ちょっと待て〜いっ!!」
怒声をあげる天目蠍。
「なんだ?ちゃんと名乗りを聞いてやったではないか。どうしたというのだ?」
黄眉童子はうんざりとした表情で振り返る。
「やいっ!!この極悪妖怪っ!!」
意を決した天目蠍は黄眉童子に向かって人差し指を突きつける。
黄眉童子の眉がぴくりと反応する。
「香麗ちゃんをどうするつもりだっ!!事と次第によっちゃあ、ただじゃあおかねぇぞっ!!」
と、天目蠍。
「た、ただじゃあ、おかないからって、何もお金をやるわけじゃないぞっ!釣り銭の用意をしたって、む、無駄なんだからなぁっ!」
天目蠍の陰に隠れ、白華蛇がつまらないことを言う。
「何のつもりだぁっ!貴様等ぁっ?!」
黄眉童子に凄まれ、天目蠍の人差し指が曲がる。
「お、俺達はもう、お前なんかの手下じゃないって事だっ!!」
そう言うと天目蠍はばっと上着を脱ぎ捨てた。白華蛇もそれに倣う。
「僕達、香麗ちゃんの応援団になったんだもんねぇ〜〜〜♪♯」
白華蛇が満面の笑みを浮かべ、肌着に描かれた似顔絵を誇示する。
そこには香麗の似顔絵が描かれていた。しかも結構可愛い。
「むむむ…………」
歯噛みして悔しがる黄眉童子。何も手下に裏切られたからでも、極悪妖怪と罵られたからでもない。蠍、蛇の着ている肌着が羨ましいのだ。
一瞬、自分も裏切って、悪い妖怪黄眉童子をやっつけようかとも思ったが、流石にそうはいかない。
そうなるとますます悔しくなり、余計に腹が立つ。
「ええいっ!梅花と香麗を捕らえ、裏切り者を始末しろおぉっ!!」
黄眉童子が手を振り上げて命令を下す。
「おおおおおおおおおっ!!」
命を受け、黄眉童子の手下が蠍、蛇にどっと押し寄せる。
「どっひゃあぁ〜〜っ!!何だって俺達だけにぃ〜〜?!」
悲鳴を上げる天目蠍。
当然である。二人の少女は可憐で、しかも、梅花は恐ろしく強い。与し易い天目蠍、白華蛇に押し寄せるのは至極当然のことであった。肌着が羨ましいと言うこともある。
しかし、流石に意を決して黄眉童子に背いただけのことはあり、天目蠍も白華蛇も敵を寄せ付けない。
そこに梅花が刀を振りかざして割り込む。
敵は混乱し、上を下への大騒ぎとなった。
「おのれぇ、どいつもこいつも役に立たんっ!!」
黄眉童子が激昂して乱戦の中に割り込む。手下を押しのけ、狼牙棒を振りかざして梅花の背後から襲いかかった。
がつんと言う鈍い音がして、黄眉童子が何者かに後頭部を殴打される。
見ると背後にぼんやりと輝く白い珠が浮いていた。香麗の如意宝珠である。
「あれは元始天尊の如意玉………。なぜあんな物がここに………」
ふと見ると、香麗が真言を唱え、如意宝珠を操っていた。
「君は元始天尊の………」
愕然と呟く黄眉童子。元始天尊の弟子(至宝如意玉を預けられる程の高弟)が使わされたと言うことは、釈界、仙界が本気で黄眉童子討伐に乗り出したことを物語っている。
「何処を見ているっ!相手はここだぞっ!!」
黄眉童子の感慨を余所に、梅花が神刀で斬りつける。
光刃が、すんでの所で鼻先をかすめた。
「おのれぇっ!!」
黄眉童子が狼牙棒で殴りかかる。
まともに受けては刀身がもたない。梅花は咄嗟に刀を相手に突きだした。
がりがりと火花が散り、狼牙棒が刀の側面を滑る。
狼牙棒の攻撃は空振りに終わったが、梅花の攻撃も同様に、黄眉童子の頬をかすめただけであった。
「流石だね」
黄眉童子が薄く笑う。
と、そこへ、天目蠍が二人の間に割って入った。
「おい、あんた。香麗ちゃんを連れて早く逃げな」
天目蠍が告げる。
と、同時に白華蛇が叫ぶ。
「香麗ちゃん、早く逃げてぇっ!!」
白華蛇の叫びに呼応するかのように、越影が嘶き、香麗の元に疾く駆け寄る。
「梅花あっ!早くっ!!」
香麗が越影に跨り、梅花の元に駆けつける。
黄眉童子の手下が香麗を取り押さえようと群がるが、如意宝珠の猛撃に近付くことが出来ない。
しかしながら、梅花は逡巡して香麗の元へは行こうとしない。
「何してやがるっ!!」
蠍精が叱咤する。
「あんたに黄眉童子の相手は無理だっ!!」
頭を振る梅花。
しかし、天目蠍は不敵に笑う。
「へへ、伊達に金鰲島の水を飲んじゃいないさ………。なあっ!賢弟っ!!」
天目蠍が白華蛇に声を掛けると、白華蛇も同様に不敵な笑みを浮かべる。
「応さっ!師兄っ!!」
白華蛇は得物を蠍精に投げると、その本性を現す。
瞬時にして巨大な白蛇が姿を現す。
一方で天目蠍は三面六臂に姿を変じると、手近にいた敵を殴り倒し、得物を奪い、今や大蛇となった白華蛇に飛び乗った。
「はっはぁ!一昨日、来やがれぇいっ!!」
群がる敵を薙ぎ払い、天目蠍が見得を切る。
「蠍さん達も早くっ!!」
滞空する黒麒麟の上から、香麗が手を伸ばす。
梅花は既に香麗の後ろにいる。
「へへ、応援団が一緒には逃げられないって………。それより早く逃げな」
敵をあしらいながら、天目蠍が笑う。
「矢だっ!矢を射かけろぉっ!!決して逃すなぁっ!!」
黄眉童子の命令で、香麗達に矢が射かけられる。
「香麗、早くしないと逃げられなくなるよ」
梅花の言葉に、香麗は応えようとはしなかった。
「はやくっ!」
梅花が焦れて声を荒げる。
「でも、蠍さん達が………」
香麗の目に涙が滲む。
「へへへぇ、泣かないでくれよ香麗ちゃん。俺達は香麗ちゃんの笑顔が大好きなんだからよ」
戯けて片目をつむる天目蠍。
と、そこへ、一本の矢が天目蠍の片目を襲った。
「ぐぅっ…………」
低く呻く天目蠍。
「蠍さんっ!!」
悲鳴を上げる香麗。
「早く逃げろおおっ!!」
天目蠍が怒声をあげる。
しかし、香麗が逡巡している間に状況は悪化していた。
既に多くの弓兵が狙いを定め、弓を引き絞っている。
「もはやこれまで………かな?」
梅花が呟く。
と、その時、がらがらと壁をぶち破り、巨人が姿を現した。他ならぬ、まいをその背に乗せた竜巻ファイターであった。
弓兵が驚き、矢を射かけるが、そんなものが効くはずもなく、弓兵達は恐慌に陥った。
「さっそ〜〜〜りさ〜〜ん♪♯」
竜巻ファイターの上から、無邪気に手を振るまい。
天目蠍は思わず頭を抱えそうになった。
「黄巾力士ぃ?そんなものがなんでこんな処に………」
驚きの声を上げる梅花。
竜巻ファイターは、わらわらと群がる黄眉童子の手下を蹴散らし、結果的に天目蠍達の助勢をする。
ところが、危うげないのもつかの間で、竜巻ファイターは足を取られ、ぐらりと傾く。
「あっ!危ないっ!!」
まいが放り出される寸前、咄嗟に手を伸ばした香麗がそれをさらい、虚空へと飛び出した。
その様子を、満足気に見送る天目蠍。
背中にどすりと槍が突き刺さる。