○不思議人形アンジェ

 圓山桜は怪訝な表情で本棚の上に置かれた人形を見ていた。
 肩に掛かった三つ編みを後ろに払い、眼鏡のつるに指先を添え、目を細めて凝視する。
 どこからどう見ても人形である。古い、ヨーロッパ風のアンティーク・ドール。
 それが、どういう訳か自室の本棚の上に座っている。いつの間にか座っている。当たり前の顔で座っている。知らない間に座っている。
 我が物顔で部屋の本棚に座る人形。それを見つめ、怪訝な表情で首を傾げる桜。
 学校から帰り、玄関から直接階段を駆け上がり、自分の部屋に鞄を放り出したときに気が付いた。それは昨日まではそこになかった物である。
「………っかしいなぁ」
 いつの間にか本棚の上にある人形を眺めつつ、桜は呟いた。十三年という長い人生の中で、未だかつて遭遇したことのない不可思議現象である。
 ところでこの人形、実はまんざら知らない間柄でもない。と言っても町でナンパされたとか、以前付き合っていたとか、そう言うことではない。今朝、登校中に見かけたのだ。
 この人形、今朝はゴミ袋の上に鎮座在してお出でであった。あと数十分もすればゴミ集積車に放り込まれ、他のゴミと一緒にめきめきと圧縮される運命であった。その境遇には桜も同情した。だから、この人形のことを覚えていたのだ。ちょっぴり高そうだなとか、勿体ないなぁとか思ったりもした。だからと言って、この人形がここにある理由にはならない。
 さて、どんなに長い時間首を傾げても、頭をひねっても、これといってこの人形がここにある理由が思い浮かばない。母親に聞いても知らないと言う。他にこの家に出入りしている人間と言えば、桜を作ることに最大の貢献をしたパパ君であるが、(この際その真偽については触れない)まだ帰宅はしていない。
 そしてついに、桜は考えるのをやめた。気持ちが悪いとは思うが、仕方がない。今更捨てにいくのも可哀想だ。ともかく、何か妙案が浮かぶまで、人形様にはこの本棚の上で偉そうにふんぞり返っていてもらうことにした。
 取り敢えずカーテンを閉め、服を着替え始める桜。人形のことで時間をとられてしまい、まだ学校の制服を着たままだ。
 ベッドの上にどすんと腰を下ろすと、黒いニーソックスをくるくると巻いていく。そうして、臙脂色のセーラーに手をかける桜。が、指が止まる。誰かに見られているような気がしたのだ。それもひたすら好色そうな眼で………。
 自意識過剰だと思い直し、かぶりを振る桜。普段から気の弱い桜は、母親からよくそう言って注意される。大体、少女の着替えを覗こうなどという不埒者はこんなスケベな小説を書いている作者か、鼻の下を伸ばしてそれを読んでいる読者諸兄くらいなものだ。
 えいっとばかりにセーラー服の裾を掴み、一気に脱ぎ捨てる。眼鏡を外し忘れていた為引っかかってずれるが、すぐに直し、そのままの勢いでスカートのホックを外し、脱ぎ去った。
 下着だけの姿になる桜。しかし、やはり誰かに見られているようで気に掛かる。手で胸元を庇うと、タンスの中から急いで着替えを取り出す。
『小さいけど、形のいい胸ね………』
 ふと、誰かの囁き声が聞こえる。ぎょっとして部屋の中を見回す桜。一瞬、人形と視線がぶつかる。
「ははは、まさかね………」
 引きつった笑いを浮かべる桜。気を強く持たなければ。自分は気が弱すぎるのだ。だから、変な空耳が聞こえたりするのだ。そう、自分に言い聞かせる。
 タンスの中から白いタンクトップと黒のプリーツスカートを取り出すと、急いで着替え、階下のリビングに降りていった。
 特にその日は何をするでもなく、桜は夕方までをソファーの上でテレビを見て過ごした。
 母親と一緒に静かな食事をとり、入浴を済ませる。着替えの為に部屋に戻ったときには、既に人形のことなど頭から消えていた。しかし、部屋の明かりをつけ、人形と視線が合うと途端に現実に引き戻され、肩ががっくりと落ちる。ついでに、胸に巻いたバスタオルも落ちかけるが、こちらはしっかりと押さえる。………残念。
「………はあ」
 溜め息。
 一瞬、今からでも捨てにいこうかとも思い、人形に手を差し伸ばすが、ギロッと睨まれ慌てて手を引っ込める。
「………あう〜」
 どんよりとした雲が頭の上に漂う。自分の気の弱さが恨めしい。
 桜は困った。捨てにも行けない、このまま置いておくのも気持ちが悪い。どうしよう、どうしようと言葉がぐるぐると頭の中を回転する。事態は桜がこれまでの人生で出会った最大の難問、ドール・パラドクスであった。そうして、このアンビバレンツは、桜が悩み方を悩み始めることによって更なる混迷を迎える。
『………おねがい』
 ふと、昼間聞こえた声が再び耳に届いた。
『おねがい、桜ちゃん………助けて』
 辺りを見回すが、誰もいない。………そう、人形の他には。
「に、に、に、に、に、に、に、に、に、に、ニシンがサンゾーッ!!!」
 桜は混乱し、訳の分からないことを叫んで、思わずシャカシャカと後じさる。
『人形が喋った、でしょ?』
 呆れ返っている人形の言葉に、言葉を失くした桜は無言でぶんぶんと首を縦に振る。
『おねがい、桜ちゃん。私を助けて』
 人形は再び懇願する。その切実な様子に、お人好しの桜は………もとい、優しい桜は人形の側へと歩み寄る。
 そろり、そろり。
 指先で顔を撫でてみるが、どうやら噛み付いたりはしないようだ。
「た、助けるって、どうやって?」
 まだおっかなびっくりであったが、取り敢えず聞いてみる。もし、人形の表情が変わったなら、きっと薄く笑っただろう。人形は笑いたくなるのを堪えて、しおらしく言った。『おねがい、桜ちゃん。私を助けて。私、アンジェって言うの。本当は妖精なんだけど、悪い奴に呪いをかけられて人形の姿にされたの。だからおねがい、助けて、桜ちゃん………』
「は、はあ、………でも、どうやって?」気の抜けた返事をする桜。
『この胸から下がってるペンダントを擦ってくれればいいの。そうしたら私は元の妖精に戻れるわ』
 見ると、今まで気が付かなかったが、成る程赤いペンダントが下がっている。木の葉型というか、船底型というか、些か猥褻なペンダントである。
「………こ、これを擦ればいいの?」
 ペンダントを凝視し、思わず頬を染める桜。
『そう、その一番上の突起部分を擦って、優しく、優しく、撫で回すように………』
 熱っぽく語る人形。
『今度はその外側の膨らんだ部分を………あん♪♯』
 と、その時、ぼぼんと煙が立ち上り、煙の中から金髪の美しい少女が現れた。歳は桜と同じくらいだろうか、悪戯ぽい笑みを浮かべた、少し子悪魔的な美少女。
「ありがとう、桜ちゃん」
 腰を抜かしている桜を見下ろし、今や人形から人の姿に戻ったアンジェが艶然と微笑む。「さあ、桜ちゃん、助けてくれたお礼に願い事を叶えてあげるわ。何でも言って♪♯」
 ぐぐっと顔を近づけるアンジェ。桜は気後れして後ろに下がる。
「そ、そんな事、急に言われても………。あ、あの、その、………例えば、どんな願い事なら叶えられるの?」
 桜の質問に、アンジェは顎に人差し指を当てて考える。
「そうねえ………、例えば」
「たとえば?」
「SEXの相手とか、SEXの相手とか、SEXの相手とか、………他には、Hの相手とか」
「ダッチワイフ?」
「違うわっ!!」
 桜の突っ込みに激怒するアンジェ。しかし、蛍のバスタオル一枚というあられもない姿に気が付き、目つきが変わる。肉付きの良い白い太股に視線を落とし、ごくりと唾を飲み下す。
「ふふふ、ダッチワイフでも何でも、気持ちの良い事してあげられるわよ………」
 そう言ってにじり寄るアンジェ。桜は引きつった笑いを浮かべて更に後ずさるが、ベッドに行く手を遮られてしまう。
「………あ、あのぅ」
「大丈夫、私に任せておいて………」
 そう言って、桜の細い腰に手を回し、抱きすくめる。
「や、やあっ!!」藻掻く桜。
 しかし、その為にバスタオルがはらりと落ち、膨らみかけの可愛い乳房が露わになる。
「きゃあっ!!」
 慌てて胸を隠そうとする桜。しかし、アンジェはその腕を掴み、唇をその突起に寄せていく。
 ちゅっと小さな音を立て、アンジェの柔らかな唇が乳首に先に触れる。
「………や、やあ、………だ、だめぇ」
 ちゅくちゅくと乳首を転がされ、桜は身を捩って逃れようとする。
「ふふふ、まだまだこれから。次はこっちの方も………」
 アンジェは酷薄な笑みを浮かべると、白く細い指を下腹部へと潜らせる。
 と、そこへ、不審な物音に気が付いた桜の母親が、彼女の部屋をノックした。
 とんとん。
 煙と共に、元の人形の姿に戻るアンジェ。
「どうしたの?誰かの声がしたけど?」
 ドアを開け、顔を覗かせる桜の母。部屋の中を見回すが、誰もいるような気配はない。
「だ、だ、誰もいないよ、ママ」
 桜は慌てて身繕いをし、母親にそう答える。桜の母は首を傾げると、ドアを閉め、そのまま階下へと降りていった。
「………ふう」冷や汗を拭う桜。
「それにしても、どうして急に元に戻ったのかな?」首を傾げる桜。そこに、人形に戻ったアンジェが怒りを露わにして毒づく。
『も〜うっ!!何だって肝心な時にノックなんかするの!!せっかくの御馳走を前にして、悔しい〜っ!!』
「ははあ」得心する桜。「あなた、ノックの音がすると元に戻るのね?」
 桜の言葉に、アンジェは失言を悔やむが、今更もう遅い。桜はアンジェに紙袋をかぶせると、そのまま後ろを向けてしまった。アンジェは桜を罵ったが、取り敢えずの平安を桜は得たのだった。
 ともかく、人形のことは明日考えよう。日中に捨てにいけば、怖くはないだろう。そう決めると桜は、髪の毛を乾かすとパジャマに着替え、そのままベッドの中に潜り込んだ。部屋の電気を消すときは流石に躊躇われたが、相手の弱点が分かったので多少は安心できる。

 ところが、桜はなかなか寝つかれなかった。いつもより時間が多少早いと言うこともあったが、やはりアンジェのことが気に掛かるのだ。暗闇の中、何度も寝返りを打つ桜。目覚まし時計の音が、やけに耳に付く。
『………ねぇ、桜ちゃん?』
 静寂を破り、アンジェが話しかけてきた。聞こえない振りを決め込む桜。
『私がどうしてここに来たか分かる?』
 アンジェは桜に構わず話を続けた。彼女が聞いているのは分かっている。
『今朝、あなたに会ったとき、私、分かっちゃたの』
 アンジェはそう言うと、楽しくてたまらないという風にくすりと笑った。
『この子は昨日、オナニーをしたんだって………』
 アンジェの言葉に、桜は心臓が飛び出しそうなくらいに驚いた。事実、桜は昨晩、ベッドの中で悪戯をしたのだ。
『可愛い顔して、ほんと、エッチなんだから………』
 囁くアンジェ。布団の中で耳を塞いだ。どうしてこの人形がそんなことを知っているのだろう?
『………ふふふ、私には分かるのよ、オナニーした後の女の子の匂いが………』
 不思議なことに、アンジェの言葉は耳を塞いでも聞こえてきた。それでも何でも、桜はきつく耳を閉ざし、無駄な努力をする。
『どうしたのかしら?今晩はオナニーしないのかしら?とってもエッチな桜ちゃん』
 闇の中、人形のくすくす笑う声が聞こえる。
『我慢すること無いのよ。だって、オナニーってとっても気持ちが良いものね。最初は軽く全体を揉むようにして、だんだんと谷間に指を這わしていくの。そうして、ぬるぬるを指ですくって………』
 アンジェの言葉に桜はふと股間に指を伸ばしかけている自分に気が付いた。かぶりを振る桜。人形の言いなりになってはいけない。………でも。
『………しこり立ったお豆さんをくすぐるの。そのうち、くちゅくちゅってとってもエッチなお汁が溢れてきて………』
 大丈夫、人形は袋は被っているし、自分はベッドの中に隠れてる。声さえ立てなければ気付かれる心配はない。そろそろ、そろそろとパジャマのズボンの中に手を差し入れる。
 にちゅ。
 気が付かないうちに、桜のあそこからは猥褻な汁が溢れていた。アンジェのいやらしい言葉のせいだろうか。声を殺し、淫裂をまさぐる桜。
『………でもね』気が付いているのか、いないのか、アンジェは更に言葉を続けた。『でもね、人にしてもらうと、もっと気持ちが良いのよ?』
 指を泳がせる桜の耳に、人形の言葉はゆっくりと染み渡っていく。
『………自分でするより、ずっと、ずっと気持ちが良いの。人の指があそこをまさぐって………、人の舌があそこを舐め回すの………。柔らかな舌が、ぐにぐにってあそこを掻き回したら、とっても、とっても気持ちが良いの………』
 何時しか桜の指は動きを止め、アンジェの言葉に耳を傾けていた。
『私なら、桜ちゃんをとっても気持ちよくしてあげられるのに。人に頼めない、どんなエッチなことだってしてあげられるのに………』
 パジャマの胸元を握り締め、疼く淫欲に桜は耐えようとした。もじもじと太股をすりあわせ、もどかしげに手を握り締める。
『………今晩だけなら、どうって事ないよね?すぐに人形に戻せるんだもの………』
 ふらふらとベッドからは出す桜。アンジェにかぶせた紙袋を取り、ペンダントに手を添える。
「ありがとう、桜。私の可愛い桜。とってもエッチな桜………」
 元の姿に戻ったアンジェは溜め息混じりにそう呟くと、虚ろな表情の桜を抱き寄せ、顎に指を添えてその唇を奪った。口を強引にこじ開け、無理矢理舌をねじ込み、柔らかな舌を絡め取る。
 そしてそのままベッドに押し倒し、自分も服を脱ぎ去ると、桜のパジャマを乱暴に剥ぎ取った。お椀を臥せたような、小さいが形の良い胸が露わになる。
「さっきはここでおあずけを食ったのよね………」
 そう言うとアンジェは、桜の小さな乳首を人差し指と中指の間で愛おしげに転がした。桜の幼い身体がぴくりと反応する。そして、アンジェはそこに唇を寄せると、舌先でころころと転がした。
「どう?人にしてもらうって気持ちが良いでしょう?でもね、私に意地悪したことも後悔してもらわないとね♪♯」
 そう言うとアンジェは、幼い乳首に歯を立てた。痛みに悲鳴を上げる桜。
「い、痛いっ!?や、やめてぇえええっ!!」
 ぎりぎりと歯を立てるアンジェ。そしてそのまま手を桜の下腹部に伸ばした。さらさらと滑らかな恥丘を撫で回し、クレヴァスに指をねじ込ませる。
「あんぅっ!!い、いあぅう………、ひぃあっ!!」
 がくがくと弓なりに身体をバウンドさせる桜。アンジェは乳首に歯を立てたまま、荒々しく女の部分をまさぐった。桜は何とか逃れようとするが、アンジェにしっかり押さえ付けられているので逃れられない。アンジェは更にきりきりと歯を立て、容赦なく秘裂を掻き回す。
「いたぁあああっ!!やぁあ、やめぇ、ひあっ!!いやあああああああっ!!!」
 強引に絶頂感を迎えさせられた桜。淫水が派手に吹きあがる。
「ふふふ、だめねぇ、中学生にもなっておもらしなんかしちゃあ。私が綺麗にしてあげるわ」
 意地悪く笑うと、アンジェは淫水にまみれた太股に舌を這わした。ぴちゅぴちゅと仔猫がミルクを舐めるように、そして、だんだんと足の付け根へと這い上がる。
「やはぁあっ!!」
 絶頂を迎えた後で敏感になっている淫核。そこを攻められ、桜は激しく仰け反った。
「ふふふ、そんなに喜んでもらえると、私としても虐め甲斐があるわ。んく、んくぅ………」
 太股を持ち上げ、蜜壷を舐め回すアンジェ。桜のつま先が突っ張り、刺激と共にぴくぴくと痙攣する。
「はぅあっ!お、おねがいぃ………もうや、ぁあ、あんっぅ!!」
 切なげに身を捩る桜。言葉とは裏腹に、花心からははしたなく蜜が溢れだしている。
「あふぅ、桜ちゃんのここ、こんなにお汁が溢れてる………。舐めても舐めてもどんどん出てくるから、綺麗にするのも大変♪♯」
 アンジェはそう言うと、指でとろみ汁をすくい、桜の口元に持っていった。桜は無意識に口を開き、赤ん坊のようにちゅうちゅうと吸い付く。
「ホント、思った通りの淫乱ちゃんね?でも、そんなだから私のお眼鏡にかなったのよ。ふふふ、そろそろ私もしたくなったから、今度は一緒にいきましょ?」
 そう言うとアンジェは桜の太股を持ち上げ、自らの肉襞を重ね合わせた。アンジェの秘唇も既にとろとろと涎を垂らしており、ぬちゃぬちゃと猥褻な音が洩れる。
「やはぁっ!あんぅっ!!…………わ、わたし………へ、へんになちゃぅうっ!」
 桜の身体がびくびくと痙攣を繰り返す。頬は上気し、目には涙が滲み、鼻に掛かった嬌声が我知らず洩れ出す。
「あん、き、ああんぅ………変じゃなくて、ひあっ!!き、気持ちが良い……でしょ?」「ふんぅっ、………き、気持ち好いいいのぉっ!」
 桜は絶叫した。これまで以上の快感が押し寄せ、絶頂に向かって押し流そうとする。そしてアンジェも同様、背筋に電流が走り、だんだんと絶頂に向かっていた。
「わ、私も、もう………あんっ!………い、いきそう」
 身体をがくがくと痙攣させ、アンジェは快美感を噛み締めた。二人の割れ目からぬるぬると愛液が溢れだし、太股を濡らす。
 そして、二人の少女がついに達しようとした瞬間。
 とんとん。
 次の瞬間、桜のお腹の上に人形が転がった。
 桜の母親が、物音に気が付いて二階に上がってきたのだ。
「どうしたの、桜?寝つかれないの?」
 ドアの向こうで桜の母親が声を掛ける。桜は慌ててアンジェを本棚の上に置くと、ベッドに潜り込んだ。
「ううん、何でもないのママ。ちょっと寝ぼけてベッドから落ちただけ」
 桜の言葉に、桜の母親は首を傾げたが、部屋の中を覗いて何事も変わったことがないと分かると、そのまま階下へと降りていった。

 翌朝、桜は目が覚めると一番に人形を見た。指先で突っついてみても、頭を叩いてみても、何の反応もない。
「ねえ、………ねえ、アンジェ?………ねえ?」
 やはり何の反応もない。
 どこからどう見てもただの人形である。
 昨日の事は夢だったのだろうか?
 桜は訝しげな目を向けたが、人形が何の反応も示さないことが分かると紙袋をかぶせて放っておくことにした。捨てにいくのも怖いし、そのまま置いておくのもやはり怖い。
 桜はそのまま臙脂色のセーラー服に着替えると、鞄を手にしてどたどたと階段を下りていった。
 が、暫くして桜は戻ってきた。きょろきょろと部屋の中を見回すと、本棚の上に目を留める。
「…………」
 何を思ったか、桜は人形にかぶせた紙袋を外し、そしてまた、部屋を出ていった。

 部屋を出る直前、ちらりとアンジェに目をやって。


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